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episode3_1
人がごった返す駅前に降りた李央は階段を上り、駅ビルの二階部分に併設してある改札口正面まで歩いて行く。
こちらの容姿は相手に伝えてある。 李央は腕を組んで柱に寄り掛かり、改札を通る人に目を向けた。
しばらく目をこらしていたが、忙しなく行き交う人の群れに飽きたようにあくびをした。その直後、潤んだ視界の向こうにこちらへ真っ直ぐ歩いてくる男を見つけた。
「リュウキさん・・・ですか?」
小柄な男は、サラサラの焦げ茶の髪に黒縁めがね、モノトーンの服装にリュックを背負っている。李央より年下で、見た目は今時の若者だ。
伏し目がちに李央を見て恥ずかしそうにしている。
「こんにちは」
にこりと笑いかければ、ホッとしたそうに表情が少し緩んだ気がする。
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ。名前は?」
「広夢 です」
「そう。じゃ行こっか」
そう誘うと李央はさり気なく広夢の腰を抱いた。びっくりして李央の横顔を見てみるが、何事もないように真っ直ぐ前を見ている。
こんなに人がいる所で恥ずかしいと言いたいが、李央の雰囲気に飲まれて言えない。
「何かしたいことある?」
「あ、えっと、まず映画を一緒に見たいです」
慌てて視線を逸らした広夢は映画館のある方を指差した。
「この間の週末に公開したアクション映画なんですけど・・アクション映画好きですか?」
「うん。なんでも観るよ」
「よかった!公開前からずっと観たくて」
好きなことになると饒舌になるのか、広夢はにこにこして映画の話をし出した。
一生懸命に話す広夢に、李央は時折相づちを打って応えてやる。
「チケット買ってくるので待ってて下さい」
駅から歩いて十分くらいで着いた映画館はそれなりに大きい建物で、幾つもの映画を上映しているらしい。一番目立つところに貼られている大きなポスターが広夢が観たいと言っていた映画だろう。
「お待たせしました」
「お金いいの?」
「え、あ、はい。デートにかかるお金は全部こっちが出すって契約なので・・」
「ああ、そうだったよね」
とぼけたふりをした李央はまた広夢の腰を抱き、あと十五分余りで上映開始だというスクリーンへ向かった。
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