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第47話 未来③

 その時、和樹のスマホが振動した。宏樹からの返事だ。それによると、明日は父親が早く帰る予定なので、外食するなら明日にしないか…ということだった。また、昨日は和樹が外泊したため、和樹の好物を用意して待っていた母親が少しばかり淋しそうだ、だからできれば今日も家で母の手料理を食べてやってほしい、とも。そういうことなら仕方ないと、和樹は了承を伝えた。 「涼矢ぁ。」キッチンで何やら調理を始めた涼矢に声をかける。 「ん?」 「明日も早く帰らなきゃならなくなった。家族とのメシ、明日になった。明日なら親父も参加できるんだと。」 「ふうん。」涼矢は特に残念がる様子はない。それどころか「だったら、明日はこっち来なくていいんじゃない?」と言った。 「冷たいな。」料理に忙しそうな涼矢に、聞こえるか聞こえないかの声で呟く。 「何か言った?」 「なんでもない。」  しばらくして、涼矢はオムライスを二人分持ってきて、和樹の前にその皿を置きながら「ご希望で、ラブビームを注入させていただきます。」と言った。とりたてて裏声で言うわけでもなく、いつも通りの淡々とした声で。 「お願いします。」和樹もそれに乗っかって、応える。 「はい、かしこまりました。」涼矢はケチャップを構え、「ラブ注入!!」と言うが早いが、薄焼き卵の上に勢いよくハート型を描いた。 「あの……。」和樹は笑いをこらえながら言う。「そんな体育会系のメイドさん、嫌なんですけど。」 「贅沢言うな。」涼矢はそう言って、自分のオムライスの上にもケチャップをかけた。こちらは、普通にかけただけだ。  笑い転げながら、「おまえ、メイドカフェ行ったことねえだろ。」と和樹が言った。 「ないけど、テレビではこんなだった。」 「俺も行ったことないけど、絶対違うって。」 「これをやるとオプション料金でプラス500円だって。」 「ないわー、それ絶対ないわー。」 「だよな。」涼矢はニコリともせず、うなずく。しょっちゅう赤面する割には、こういうことには特に照れるわけではないようだ。  二人で、朝食と言うより昼食となったオムライスを食べた。和樹は涼矢の料理の腕をひとしきり褒めた。 「弁護士よりシェフに向いているんじゃないの。」と和樹が言う。 「料理人だと、自分の好きなものばっかり作れないし、嫌いな奴のためにでも作らないといけないから嫌だ。」と涼矢が答える。 「好きな人のために作りたい?」とニヤニヤしながら和樹。 「どうせ作るなら、そうだろ。じゃないと楽しくないし。」 「このオムライスは、作ってて、楽しかった?」 「……楽しかった。」 「ラブ注入もしてくれたもんね。」涼矢は返事をせず、そそくさと後片付けを始めた。和樹はその手を握った。「オプション料金、ちゃんと払わないと。」その手を引き寄せて、涼矢にキスをした。 「今日はしないって。」 「キスだけ。」和樹は立ちあがって、本格的に涼矢を抱きしめ、もう一度キスをした。涼矢もまた、いったん手にした食器をテーブルに戻し、それに応える。 「んっ。」キスだけ。その言葉通りに、和樹はキスしかしていないけれど、何度もディープキスをし、やがて首筋に、鎖骨のほうにまで、と、エスカレートしていった。「だから、だめだって。」涼矢の抵抗は形式的で、押し返す力もごく弱い。結局ぐいぐいと迫ってくる和樹にテーブルに押し付けられるような形となり、涼矢は後ずさりもできなくなった。 「キスぐらいさせて。」 「なんでそんな必死なんだよ。」と言う涼矢に、 「なんでそんな平気なんだよ。」と和樹は聞き返す。

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