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第51話 淋しさの行方②

「交替する?」 「いい。今日はそういうことしないって言ったろ。」 「ここまでやっといて言う? しかもキスしたいって、たった今、おまえが。」 「今決めた。今日はもう、この先はしない。」 「なんだよ、それ。」 「たまには節度を保てよ。般若心経、教えてやろうか?」 「ズルイなぁ。」和樹は苦笑した。「大丈夫なの? その、おまえのソレは。」  涼矢は和樹に全身を預けるようにして抱きつき、真正面から和樹を見る。「大丈夫じゃないよ。ガッチガチに勃ってるよ。これを和樹のあの可愛い尻の穴に入れて、何度も突いて、和樹をアンアン泣かせながらイキたいよ。」 「りょ、おまえ、よくそういうことを真顔で言えるな。」 「でも、我満する。なんたって俺は節度というものを知っているからね。自分の欲望のままに動いたりはしないんだ。」 「それ、誘ってんの?」 「違う。言語化することで自分を客観的に見て、昂奮状態を抑えようとしている。」 「逆効果じゃないかな?」 「やっぱり?」 「……夕飯に間に合えばいいんだ。まだ時間はある。」和樹は涼矢の手を握る。「おまえの部屋、行くぞ。」  涼矢はため息をついた。「俺の節度と自制心を台無しにする気か。」 「そんなもんどこにあったんだよ。」 「おまえのせいだ。おまえが悪い。」 「ついに理屈もへったくれもなくなってんじゃねえか。」和樹は握る手に力を込めた。「全部俺のせいにしていいから、俺の言うこと聞いて。」  和樹に手を引かれて、涼矢は二階に上がった。 「今日は早く帰る。明日は会わない。明後日のことは、また連絡する。」部屋に入ると和樹は業務指示を復唱するように言った。 「うん。」 「今日はもう何もしないってのは、撤回。」 「……そういうことになるだろうね。」 「それは全部俺のせい。」 「そのとおり。」 「涼矢は俺の言うことを聞く。」これには何かしらの否定的な反応が返ってくるだろうと予想しながら、あえて和樹は言ってみる。  が、涼矢は「うん。」と答えた。 「え。」戸惑ったのは和樹のほうだ。「俺の言うこと、聞くの?」 「聞きます。」 「へえ。」和樹は涼矢をベッドに座らせ、自分はその眼前に仁王立ちした。「この前のおまえみたいに、俺の前でマスかけって言ったら、やるの?」 「うん。いいよ。」涼矢は自分のズボンに手をかけた。 「待て、いい。やらなくていい。」和樹は焦った。  涼矢は和樹を見上げる。「じゃあ、何してほしい?」なかなか答えない和樹に、涼矢がたたみかけた。「それとも、俺に、何かしたいの?」 「な、何かって……。」 「いいよ。顔射? 目隠し? スパンキング? ああ、相手が痛がるのはダメなんだっけ。」 普段と変わらない淡々としたトーンと、それで語られる言葉のいかがわしさのギャップに、和樹は混乱した。 「もう勘弁して。」和樹は仁王立ちからへなへなとしゃがみこみ、ベッドに座る涼矢よりも低い目線になった。「悪かったよ。」 「何が。」 「俺が言うこと聞けなんて言ったから、そんなこと言うんだろ?」 「素直に思ってることを言っただけだけど、なんでそうなるの?」  和樹はしゃがんだまま涼矢の膝に顔をのせた。「涼矢くんは、なんだろうね、エロい悪魔なのかな。」 「ごめん、和樹の言ってることの意味がわからない。おまえは俺とエロいことしたいんじゃないの?」 「したい。」 「俺に言うこと聞かせたいんだろ? だから、いいよって。で、俺は何すればいいのかなって聞いてるんだけど。」  和樹は「ハア~」と深いため息をついた。

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