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第75話 between the sheets ①
和樹はそのまま涼矢に覆いかぶさるようにして、ベッドに押し倒した。
「ちょ、いきなり?」
「いきなりじゃない。今日一日、ずーっと我慢してた。ううん、今日だけじゃない、昨日から、ずっと。」涼矢の唇をむさぼるように、激しいキスをした。涼矢も嫌がらずに、それに応えた。「涼矢は?」
「したかったよ。」涼矢は早くも和樹の下半身に手を伸ばす。
「あ、ちょっと待って。こっち。」和樹はベッドと涼矢の上から降りて、布団を顎で示した。「兄貴からベッド使用禁止令が出てる。」
「えっ。」
「二人で寝るなら布団使えだとさ。」
涼矢は赤面しつつベッドから降りた。
そこまでは良かった。
二人は布団を前にして、立ち尽くした。
掛け布団は二つ折りのまま部屋の隅に置いてある。目の前にあるのは敷布団と枕。糊が効いていて余計なシワのない、真っ白なシーツが目にも眩しい。
涼矢が口を開く。「一応聞くけど、おまえは自分でシーツを洗濯しないよな?」
「しないね。」
涼矢は隣の和樹に顔を向けて、真顔で言う。「俺は、このシーツを乱さずにセックスできる自信ないよ?」
「涼矢くん、気持ちはわかるけど、言葉選びにもう少し気を使って。」
「回りくどく言っても仕方ないだろ。で、どうするんだ? 何もせずおとなしく寝るという選択肢もあるけど。」
「そんな選択肢はない。」
「ないんだ。」
「おまえにはあるのか?」
「……ない。」
「ちょっと待ってて。」和樹は、そう言うなり、部屋を出た。
和樹は自分の部屋に行く。宏樹はベッドで寝ころんで和樹の漫画を読んでいた。
「ちょっと失礼。」まずは自分のバッグを取る。それからベッドの上をしばし見つめる。
「何だ?」
「お気になさらず。」そう言って、和樹は宏樹の足もとに丸まっていたタオルケットを手にした。毛布の肌触りが苦手な和樹は、肌に直接当たるのはタオルケットと決めており、季節を問わずに愛用している。ついでに「今、兄貴の部屋でしゃべってたんだけど、聞こえてた?」と聞いてみる。
「いいや。」
「そ。」
「俺が泊まれと言っておいてなんだけど、複雑だな。」と、宏樹は漫画から目を離さずに言った。だが、そのページはさっきから1ページも進んでいない。単に和樹と目を合わせづらいだけのようだ。
「何もしませんから。テレビゲームやるだけ。」
「嘘つけよ。」
「そう思ってたほうがお互いのためだろ。」
「フン。」宏樹は鼻で笑う。
「その一番下の引き出しに辞書があって、その下にエロ本があるから、良かったらどうぞ。巨乳のお姉さんだよ。」
「とっとと行けや。」
「はいはい。おやすみ。」
涼矢の待つ部屋に戻ると、涼矢はちょこんと布団の上に座っていた。ご丁寧に正座している。
「初夜の新妻みたいだな。」
「おかえりなさい、あなた。」涼矢は三つ指をついてお辞儀をした。
「これ。」和樹はタオルケットを広げて見せる。「シーツの代わりにこれ敷けば、なんとかなりそうじゃない? シワはもちろん、少々の汚れも目立ちません。」実演販売のような口調で和樹が言った。
「ほう。おまえは、こういうことに関しては実に頭の回転が早い。」
「ねえ、兄貴と言い、おまえと言い、ほめてるふりして悪口言うのやめて。」
「悪口なんて言わないよ。」涼矢は立ち上がり、和樹に近づいた。和樹は反射的に後ずさりをして、ドアに背中がつくところまで追い込まれた。涼矢が両手を伸ばし、壁ドン体勢になった。「俺とセックスするために必死な和樹が可愛くて仕方ない。」そして、キスをする。
「んっ。」和樹は手にしていたタオルケットを落とし、涼矢の背に腕を回す。水音が出るほどの、熱烈なキスが続く。こんなはしたない音が、もしこのドアの外まで響いていたらどうしよう、と思う。そんなわけはないのだけれど。
涼矢が和樹の股間を触った。「キスだけで勃つとか。たった一日かそこら我慢しただけでこれで、本当に一人暮らしなんかできるの。」触りながら、耳元で囁く。
「い、いいからっ。まず、これ。」和樹は涼矢を振り切るようにして、落ちたタオルケットを拾った。
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