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第79話 between the sheets ⑤

 事後の処理を簡単に済ませると、二人は布団に並んで横たわった。 「てめえ、最低だな。」と和樹が言う。 「何が。」 「鍵。」 「うっかりしてたんだよ。で、後から思い出した。」 「んなわけないだろ。」 「本当だよ。」 「しれっと嘘をつくな。」  涼矢は少し身を起こして、和樹にキスする。「本当だって。」頬にも優しくキスをする。 「でも、ごめんね。」 「ずるいなあ、もう。」和樹は苦笑して、キスを返す。  涼矢が和樹の髪を撫でた。その腕を見て和樹は「そういえば、噛んだとこ、どうなった?」と言った。 「大丈夫。」さする仕草をしながら、涼矢は微笑んだ。 「見せろよ。」強引に腕をひっぱり、確認する。歯型は残っているが圧による薄い痕跡で、傷になっているというほどではない。それでも、色白の涼矢だとそれなりに目立つ。「ごめん。」 「全然。」涼矢は和樹の額に口づける。「もっと強く噛んでほしかった。こんな時でもなきゃ、してくれないだろ?」 「おまえ、マゾかよ。」いや、涼矢がマゾなわけないだろ、と自分で自分にツッコミを入れながら和樹は言う。 「痛いのは俺だって好きじゃないよ。ただ、和樹のものになりたいだけ。」  涼矢がさらりとそんなセリフを言い、和樹のほうがドギマギしてしまう。もはや、いつものパターンだ。 「俺のものだよ。」和樹はそう言って、涼矢にキスをした。「そんで、俺は、涼矢のものだ。」  涼矢が嬉しそうに微笑んだ。涼矢は俺にあれだけのことをしておきながら、こんな俺の一言に、無邪気に嬉しそうな表情をする。こういう時、俺はこいつをどうしたらいいのかわからなくなる。愛しくて、可愛くて、時々怖くて、離れられない。  和樹は涼矢の頭を引き寄せて、胸に抱いた。愛しくて、可愛くて、時々怖くて、離れられない涼矢。でも、もうすぐ、離れないといけない。 「涼矢さぁ。」と和樹が話しかけた。 「うん?」和樹の胸に顔を埋めているせいで、少しくぐもった声で涼矢が答える。 「毎週来いよ。東京。」 「行けるかよ。」 「だよなあ。大学入ってから、最短でいつ会えるのかな? ゴールデンウィーク?」 「大学ってゴールデンウィークも授業あるらしいよ。おまえのとこもそうじゃねえの?」 「まじかよ。」 「その分、夏休みとか長いはずだけど。」 「じゃあ夏休みまで会えない? うわ、無理。想像しただけで淋しくて死ぬ。」 「ウサギかよ。」涼矢は和樹の胸から脱出して、同じ目線の位置になる。「和樹は大丈夫だよ。すぐ友達でもなんでもできる。淋しくなるヒマなんかない。」 「友達はともかく、なんでも、とはなんだ。」 「浮気相手。」 「ただし女子に限るって?」和樹は笑う。 「そう。」涼矢は真顔だ。 「浮気なんかしないってば。男だろうが女だろうが。」 「そう願っておくよ。」と涼矢は軽くいなす。「まあ、何日もっていうのは夏休みまでお預けだろうけど、金曜日の夜に行って、土日……ぐらいだったら、もっと早い時期で行けると思うよ。」 「うん。待ってる。」  涼矢の顔が少し赤らむ。 「なんで照れてんだよ。」と和樹が冷やかした。 「か、和樹のほうが、俺を待つとか……こういう日が来るとは思ってなくて、ですね。」 「おまえの照れたり恥ずかしがったりするポイントが、ホントわかんねえよ。あと口調がおかしくなってるぞ。」 「恥ずかしがってる時の和樹は天使です。」 「黙れ。」和樹はキスで涼矢の口をふさいだ。それから、ゆっくりと涼矢の胸に手を這わせた。「じゃあ、その天使ともう一回、しよ?」 「よく考えたら、悪魔かも。」 「それはおまえだろ。」ほとんど本心だ。俺がどれだけおまえにふりまわされているか、おまえは全然わかってないんだろうな。それとも、わかってて、それか?「鍵はちゃんと締まってるよな?」 「……さあ。忘れた。」涼矢の目がふわっと潤み、熱を帯びてくる。半開きの唇に、和樹は自分の唇を重ねた。

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