79 / 138
第79話 between the sheets ⑤
事後の処理を簡単に済ませると、二人は布団に並んで横たわった。
「てめえ、最低だな。」と和樹が言う。
「何が。」
「鍵。」
「うっかりしてたんだよ。で、後から思い出した。」
「んなわけないだろ。」
「本当だよ。」
「しれっと嘘をつくな。」
涼矢は少し身を起こして、和樹にキスする。「本当だって。」頬にも優しくキスをする。
「でも、ごめんね。」
「ずるいなあ、もう。」和樹は苦笑して、キスを返す。
涼矢が和樹の髪を撫でた。その腕を見て和樹は「そういえば、噛んだとこ、どうなった?」と言った。
「大丈夫。」さする仕草をしながら、涼矢は微笑んだ。
「見せろよ。」強引に腕をひっぱり、確認する。歯型は残っているが圧による薄い痕跡で、傷になっているというほどではない。それでも、色白の涼矢だとそれなりに目立つ。「ごめん。」
「全然。」涼矢は和樹の額に口づける。「もっと強く噛んでほしかった。こんな時でもなきゃ、してくれないだろ?」
「おまえ、マゾかよ。」いや、涼矢がマゾなわけないだろ、と自分で自分にツッコミを入れながら和樹は言う。
「痛いのは俺だって好きじゃないよ。ただ、和樹のものになりたいだけ。」
涼矢がさらりとそんなセリフを言い、和樹のほうがドギマギしてしまう。もはや、いつものパターンだ。
「俺のものだよ。」和樹はそう言って、涼矢にキスをした。「そんで、俺は、涼矢のものだ。」
涼矢が嬉しそうに微笑んだ。涼矢は俺にあれだけのことをしておきながら、こんな俺の一言に、無邪気に嬉しそうな表情をする。こういう時、俺はこいつをどうしたらいいのかわからなくなる。愛しくて、可愛くて、時々怖くて、離れられない。
和樹は涼矢の頭を引き寄せて、胸に抱いた。愛しくて、可愛くて、時々怖くて、離れられない涼矢。でも、もうすぐ、離れないといけない。
「涼矢さぁ。」と和樹が話しかけた。
「うん?」和樹の胸に顔を埋めているせいで、少しくぐもった声で涼矢が答える。
「毎週来いよ。東京。」
「行けるかよ。」
「だよなあ。大学入ってから、最短でいつ会えるのかな? ゴールデンウィーク?」
「大学ってゴールデンウィークも授業あるらしいよ。おまえのとこもそうじゃねえの?」
「まじかよ。」
「その分、夏休みとか長いはずだけど。」
「じゃあ夏休みまで会えない? うわ、無理。想像しただけで淋しくて死ぬ。」
「ウサギかよ。」涼矢は和樹の胸から脱出して、同じ目線の位置になる。「和樹は大丈夫だよ。すぐ友達でもなんでもできる。淋しくなるヒマなんかない。」
「友達はともかく、なんでも、とはなんだ。」
「浮気相手。」
「ただし女子に限るって?」和樹は笑う。
「そう。」涼矢は真顔だ。
「浮気なんかしないってば。男だろうが女だろうが。」
「そう願っておくよ。」と涼矢は軽くいなす。「まあ、何日もっていうのは夏休みまでお預けだろうけど、金曜日の夜に行って、土日……ぐらいだったら、もっと早い時期で行けると思うよ。」
「うん。待ってる。」
涼矢の顔が少し赤らむ。
「なんで照れてんだよ。」と和樹が冷やかした。
「か、和樹のほうが、俺を待つとか……こういう日が来るとは思ってなくて、ですね。」
「おまえの照れたり恥ずかしがったりするポイントが、ホントわかんねえよ。あと口調がおかしくなってるぞ。」
「恥ずかしがってる時の和樹は天使です。」
「黙れ。」和樹はキスで涼矢の口をふさいだ。それから、ゆっくりと涼矢の胸に手を這わせた。「じゃあ、その天使ともう一回、しよ?」
「よく考えたら、悪魔かも。」
「それはおまえだろ。」ほとんど本心だ。俺がどれだけおまえにふりまわされているか、おまえは全然わかってないんだろうな。それとも、わかってて、それか?「鍵はちゃんと締まってるよな?」
「……さあ。忘れた。」涼矢の目がふわっと潤み、熱を帯びてくる。半開きの唇に、和樹は自分の唇を重ねた。
ともだちにシェアしよう!