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第80話 幸せのカタチ①
翌朝。
和樹はベッドで、涼矢は布団で目覚めた。タオルケットは元のシーツに敷きなおしてある。目覚めたのは涼矢のほうが先だった。ひとり黙々と布団を畳んだりなどしているうちに、和樹も起きた。
「何時?」と寝ぼけた声で和樹が言う。
「9時半。」
「まだそんな時間か……。」
「まだって言うほど早くないだろ。もうお父さんもお兄さんも出かけたよ。」
「会ったの?」
「会ってない。でも、玄関のほうから声がしてた。」
「ふうん。」
「あと、何かいっぱい来てる。クラスの奴から。Pランドに行く奴は10時に高校前集合。」
Pランドとは、地元唯一のテーマパーク、というよりは遊園地だ。地元といっても、昨日の市民プール同様、電車やバスを乗り継がなければならず、片道1時間以上かかる。
和樹は自分のスマホを確認した。「あ、本当だ。でも、もう間に合わねえな。どっちにしろ行かないけど。」
「行かないの?」
「涼矢は行きたいの?」
「和樹、俺としか遊んでないから。」
「家族サービスの次は友達サービスしろって?」和樹は笑う。「俺はおまえといたいんだってば。」
涼矢はベッドの上であぐらをかいて座っている和樹に近づいた。「おはよう。」
「今?」
「言ってなかったから。」
「ん。おはよう。」和樹は手を伸ばして涼矢の顔を引き寄せ、キスをした。
涼矢が和樹の顔をじっと見つめた。
「な、何? 何かついてる?」
「幸せをかみしめてる。」
「なんだよ、それ。」和樹はハハッと笑った。
「行こうか。Pランド。」
「え?」
「集合はしないで、直接、二人で。」
「でも……誰かに会うよ? あそこそんなに広くないし。おまえは、その、嫌なんだろ。クラスの奴とかに見られるの。」
「うーん。」涼矢は和樹のいるベッドを背もたれのようにして座った。「どうでもよくなってきた、そういうの。親にも兄弟にもバレてさ。わざわざ言って回る必要はないけど、隠すこともないのかなって。」
「心境の変化だな。」
「うん。それにほら、どうせ和樹、東京行っちゃうし。町なかでばったり誰かに会って気まずいなんてことも、なくなるだろ?」
「そういう意味では、俺はいいけど……残るおまえが嫌じゃない?」
「それも含めてね。別にいいかって気がしてきた。今、奏多につきあってるのかって聞かれたら、そうだよって言うよ。」
和樹はベッドの上で涼矢にすりより、背後からハグをした。「うん。」
「と言っても、全員じゃないよ。たとえば和樹のお母さんとか…あと、うちの親父もかな。まだ、言えない人もいる。でも、いつかはね。」
「うん。」和樹は涼矢の髪に顔を埋めるようにくっついた。
「そんな風に思ってて、いい?」
「いいよ。当たり前だろ。」
「ありがと。」
「こちらこそ。」
「なんで、こちらこそ?」
「だって、涼矢が、やっと……俺と付き合うことを幸せだって思ってくれたから。」
「そんなの、前から。」
「いや、おまえが俺のこと好きでいてくれてるのはわかってるけど。でも、どこかで、そのことが俺に悪いって思ってる感じが、ずっとしてた。」
「……。」
「でも、それは違うだろって、俺は思ってた。いつもどこかで一線引いてる気もしたし。人を好きになるのって、そんなんじゃなくてもっと幸せなことだろうって、言いたかった。」
「……身に覚えはあるよ。」涼矢は少しうつむいた。「そのせいで気を使わせていたなら、ごめん。」
「違うよ、そういうことじゃない。俺が言いたいのは。」和樹は涼矢を抱きしめた。「二人で幸せになろ。なれるよ。」
首に回された和樹の腕に、涼矢は口づけた。「うん。」
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