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第82話 幸せのカタチ③

 春休みのPランドは学割キャンペーンとやらをやっていて、学生風の入園者で混雑していた。大した目玉もない遊園地だが、ジェットコースターに観覧車、お化け屋敷にメリーゴーラウンドと、遊園地にあるべきものは一通り揃っている。  和樹と涼矢は、主に絶叫系のアトラクションを中心に回っていた。回りながら時折地面を見るが、まだ例のハートの石は見つからない。それに、二人がここに着いてから一時間ほどが経過しているが、今のところ級友はおろか知り合いの一人も遭遇していなかった。 「集まりが悪くて、中止にでもなったのかな。」と和樹が言い出す。 「それなら中止の連絡が来るだろう。ないから、どっかにいるんだよ。みんなでメシ食ってるとか。」 「そうだな。俺らもそろそろ昼飯、食うか?」 「うん。」  二人はフードコートに入り、注文を済ませるとそれぞれのトレイを持って空席を探した。 「あそこは?」と涼矢が示した窓際の四人がけのテーブル席。二人がそこに向かおうとしたその時、「おーい、涼矢。」と呼ぶ声がした。声のほうを見ると、柳瀬だ。そのテーブルには、ほかにもクラスの面々がいた。男女取り交ぜて総勢10人ほど。二人分の空席もあり、行かないわけにも行かない。 「よう。ここにいたのか。」 「都倉も一緒か。なんだ、来るなら来るで、ちゃんと連絡しろよ。」と柳瀬が言った。 「集合時間に間に合わなかったからさ。それに、来ればどうせどこかで会うだろうと思って。」和樹は答えながら柳瀬の隣に座る。涼矢は更にその隣。 「二人で来たのか?」 「ああ。」 「卒業間際になって、急に仲良くなったよな、おまえら。」 「うん、そうだね。」和樹は自分のうどんをすすり始めた。柳瀬たちはみんな食べ終えていて、ただおしゃべりをしていたようだ。話題も尽きてきたところにやってきた二人に、なんとなく注目が集まる。 「引っ越し、いつ。」と向かいの席の宮野が言った。 「28日。」 「すぐだな。荷造りとか終わってんの。」 「うん。」 「川島さん、今日来ないの?」と今度は柳瀬。 「俺に聞くな。」 「別れたよ、綾乃。柴くんと。卒業式の次の日。前日にあんなことしておいて、ねえ。」少し離れた席から、女子が言う。「あんなこと」というのは、カラオケボックスでの公開キスのことだろう。 「元サヤのチャンスだ。」柳瀬がにやにやしている。 「関係ねえって。」 「まあ、そうだよな。都倉は東京行っちゃうしな。」 「そんなに気になるならおまえが口説けばいい。」 「残念でしたぁ、俺には愛しの彼女がいるからね。」そこで柳瀬は涼矢のほうを向く。「ごめんなあ、涼矢。おまえに紹介するはずだった子なのに。でも、おまえがあの日ドタキャンしたせいだから、悪く思うなよ?」  涼矢がそれに返事をする前に、別の女子が言い出した。「あっ、でもさ、田崎くんもカラオケの時、爆弾発言してたじゃない。彼女できたって!」 「そうそう、なんかワケあり風のこと言ってたよね。好きになっちゃいけない人だった、みたいな。で、どうなの、今、その人と?」恋バナに目のない女子たちが一斉に騒ぎ出した。在学中は話しかけにくい雰囲気の涼矢には何も言えなかった彼女たちだが、卒業後のこんな場となると自然と気持ちが大きくなり、図々しい質問をするハードルも下がるようだ。  涼矢はチラリと和樹を見る。和樹はうどんの丼に目を落としていて、目が合うことはなかった。涼矢は「ああ、まあ、順調。」とだけ、今まで通り、無愛想に答えた。  女子たちがキャーともギャーともつかない歓声をあげた。 「涼矢の相手って想像つかないよなぁ。でさ、結局、あの意味深な発言は何? すげえ年上だったり? もしかして津々井みたく、先生とか?」と柳瀬が言う。  和樹はうどんの最後の一口をたいらげて、一息つくと、言った。「それ、俺。」一同がポカンとした顔で和樹を見る。その中には涼矢も含まれていた。「今、涼矢とつきあってる。」 「かずっ……!」涼矢が思わず席を立つ。冗談ばっかり、と笑おうとしていた他のメンバーが、涼矢の異様な雰囲気に、笑うに笑えなくなった。

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