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第84話 幸せのカタチ⑤
残されたメンバーは、この後どうしたものかとしばし思案に暮れたが、「ここにいても仕方ないから、回ろうぜ。」と柳瀬が言うと、誰ともなしに上着を着たりして、その提案に従うムードになった。「都倉も行こう。」
ぞろぞろとフードコートを出て、次はどのエリアに行こうかと、ゆるく固まりながら歩いた。和樹はなんとなく柳瀬と二人並んで歩く。
「何か乗った?」と柳瀬が聞いてきて、和樹は涼矢と乗った二つ三つのアトラクションを挙げた。
「絶叫系ばかりだな。」
「俺と涼矢でメリーゴーラウンドにでも乗れってのか。」
「そこは観覧車でしょう。カップルと言えば。」
「ああ、それがあったな。後で行くわ。」
柳瀬のニヤニヤ顔が微妙にひきつる。「改めて聞くとそれなりに衝撃。」
「一番平気そうだったのに。」和樹は柳瀬の肩をポンと叩く。「とりあえず、さっきはありがとな。助かった。」
「何が。」
「柳瀬が気にしないって言ってくれたから、なんか、みんなもそんな感じになってくれて。さすがに、ホントはそれなりに緊張してたんスよ、俺だって。」
「おまえの緊張なんかどうでもいいけど、涼矢が死にそうな顔してたからなあ。」
「意外とイイヤツだな、柳瀬って。」
「今頃気がついたのか。」
「いくら同中だと言っても、涼矢がなんでおまえなんかとつるんでるんだろって不思議だった。」
「失礼だな!」
「悪い悪い。」二人で笑う。
「でも、あいつは、それこそホントに良い奴だから。」柳瀬がふと真面目な顔をする。「ちょっと暗いけど、俺みたいにちゃらんぽらんじゃないし、努力家で、まっすぐで、だから、俺ホントにあいつには良い彼女できるといいなぁって思ってた。最初、ヒナを紹介しようと思ったのだって、ヒナがすげえ良い子だったからで。」
「で、いつの間にかおまえの彼女にしちゃった、と。」
「しょうがねえじゃん、男と女なんだからさ。……って、今のおまえに言うと、なんか変だな。」
「ははは、そうだな。」
「だからさ、大事にしてやってよ。あいつ不器用だし、何考えてるんだかわかんねえ時あるけど、良い奴だから。」
涼矢は器用だけどな、と和樹は心の中で思う。料理上手で絵だって上手い。聞けばピアノも弾きこなす。でも、柳瀬の言う「不器用」とは、そういう手先の話ではないことぐらい、和樹にもわかっていた。「大事にしてるし、されてるよ。」
「のろけんなよ、気持ち悪い。」柳瀬はわざと「オエー」という顔をして、その後すぐに真顔に戻った。「気持ち悪いって、別に、男同士だからってんじゃないぞ。おまえのキャラでのろけるのが気持ち悪いっつってんだからな。勘違いすんなよ。」
「そんな気ぃ使わなくていいよ。わかってるって。」
気がつけば、一同はお化け屋敷の前にいた。
「ここ入ろうぜ。」と宮野が言う。「マキちゃん、一緒に行こう! さあ俺につかまって!」
「宮野マジうざい。」マキは言い捨て、「でも、おもしろそう。入ろうよ。」と女子グループが率先して待機の列に並んだ。その後ろに仕方なさそうに宮野が、そして和樹と柳瀬が並んだ。
その頃、涼矢は、Pランドの端にある、幼児向けの遊具が並んでいる公園エリアで、堀田エミリと桐生カノンを見つけた。午後になり肌寒くなったせいか、遊んでいるこどもはほとんどおらず、閑散としていた。二人はベンチに座り、泣いているエミリの背中を桐生がさすっていた。二人の前に立つと、先に桐生が、それからエミリが顔を上げた。
「何よ。」と桐生が毛を逆立てた猫のように言う。
「ごめんね。」と涼矢が言った。
「涼矢。」エミリが真っ赤な目で涼矢を見上げた。「あんた、気付いてたでしょ、あたしの気持ち。」
「……うん。はっきりとじゃないけど、そうかなって思ったことは、あった。」
「あたしが告ってたら、何か変わってた?」
涼矢は黙って首を横に振った。
「そっか。あたしじゃ、だめだったんだね。最初からお話にならなかったんだ。」
「エミリがだめなんじゃないよ。ただ、俺の恋愛対象は女性じゃなかったから。ごめん。」
「ゲイならゲイらしく、もっとナヨナヨしてオネエ言葉でもしゃべってくれればよかったのに。涼矢全然そんなんじゃないから、だからあたし、勘違いしちゃった。馬鹿みたい。」
「そんな風に言わないでよ。エミリのことは、友達として、仲間として、ずっと好きだったよ。ていうか、尊敬してた。泳ぎもすごかったし、メンタル面でもエミリがみんなの支えになったこと、よくあった。辞めそうになった一年を連れ戻したのもエミリが説得してくれたんだろ? 強くて、かっこいいって思ってた。」
「あたし、女だよ? 涼矢に強くてかっこいいと思われたかったことなんて一度もない。尊敬されたくもない。そんなこと言われても全然フォローになってない。」
「ごめん。」
「もういいでしょ。ほっといてよ。あんたはバカズキのところに行けばいいじゃん。」桐生が更に攻撃的になって言い放った。
「バカズキ。」桐生の言葉を復唱して、涼矢はつい吹き出した。
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