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第86話 幸せのカタチ⑦

 涼矢たちは、連絡を取り合って和樹や柳瀬たちと無事に合流した。 「みんな、ごめんね。もう大丈夫だから、いつも通りにお願い!」エミリはペコリと頭を下げた。 「ほいほい了解。じゃあさ、次、どうする。俺らはさっきお化け屋敷と、スプラッシュコースター行ったんだけど。」柳瀬は軽く受け流した。 「あたし、あのジェットコースター乗りたい。」エミリの指差す方向には、360度回転するローラーコースターがあった。 「あれ、さっき前通った時、40分待ちだったよ。」男子の一人が言う。 「待つ!」エミリが言うと、マキも同意したが、カノンは回転するのは無理だと言い、乗りたい派と乗りたくない派で意見が割れた。 「それなら、乗る人と乗らない人で分かれよう。乗る人こっち。」柳瀬が仕切る。ちょうど半々に分かれた。和樹と涼矢は「乗りたくない派」。  後でまたフードコートで合流しようと決めて、二手に分かれた。  乗りたくない派は、和樹と涼矢、それに宮野、「40分待ちだ」と発言していた矢島、カノンとミナミ。計六人。ミナミはフードコートでマキをつついていた女子だ。 「女子のほうが平気なんだな。」と宮野が言った。「俺、ジェットコースターとか、上から垂直に落ちる奴とか、絶対だめ。」宮野はスプラッシュコースターも"見学"していた。 「俺は平気だけど、並んで待つのが嫌いなんだよ。」矢島が言った。 「ああ、俺も。行列してまでって感じ。」和樹が言う。  涼矢は男三人から少し遅れてカノン達と歩いていた。 「ミナミもコースター系苦手なの?」とカノン。 「うん、だめ。あと、横Gっていうの? コーヒーカップみたいな横に回転するのも苦手だから、乗れるものが少ないんだよね。」 「私もおんなじ。」キャッキャッと笑う。「涼矢も?」 「俺は行列が嫌。」 「はは、さっき和樹も同じこと言ってたのが聞こえた。さすが、気が合うじゃん。」  涼矢はポッと赤くなる。 「あんた、本当にアレが好きなんだね。」前を歩く和樹を視線で追いながら、カノンが言う。「さっき合流した時も、和樹が見えた途端、パァーッて明るい顔しちゃって。そんな涼矢、学校では見たことなかったけど。」 「うん。私も思ったよ。今日二人が来た時、田崎くん、雰囲気違うなぁって思って。だから、さっきの話も、だからか、って納得しちゃった。」 「驚いたけどね。」 「うん、それはもう。予想外過ぎた。予想外過ぎて、受け容れるしかないっていうか。」  同じ水泳部だったカノンはともかく、ミナミは三年生でクラスが一緒になっただけの、ほとんど会話もしたことのない女子の一人だった。正直、何の印象もない。そんなミナミでも、涼矢の雰囲気が変わったことに気付いたと言う。涼矢はずっと自分は地味に目立たずにふるまってきたつもりだが、案外他人から見られているものなのだと思った。 「良いほうに変わったよね。」とミナミが言いだした。「学校の時は、田崎くん、人を寄せ付けないような感じがあったけど、今日はなんか、親しみやすいオーラが出てる。」 「涼矢、学校じゃサムライみたいだったもんね。無表情で、寄らば切るぞ、みたいな。」 「わかるわかる!」カノンとミナミが盛り上がる。 「え、俺ってそんな、怖かった?」と涼矢が言う。 「怖いというのとは違うかなぁ。自分の世界には誰も立ち入らせない!って感じ?」とミナミ。 「わかるわかる!」再び、盛り上がる女子二人。 「全然わかんねえよ……。」涼矢は呟く。  少し後ろを歩く涼矢たち三人の盛り上がりに、宮野が気付いた。「なんで俺、あっちに行かなかったかな。田崎だけ両手に花じゃん。都倉、おまえが田崎と歩けよ。」 「みんなと遊ぶために来たんだから、これでいいの。」と和樹が言う。 「でも、この先どうすんの。おまえ東京で、田崎はこっちに残るんだろ。」と矢島。和樹とも涼矢とも取り立てて親しくはないが、話もできないほど疎遠なわけでもない。 「遠距離ってことになるねえ。」 「無理っしょ。」宮野が言う。 「一ヶ月以内には東京の女を連れ込んでるって言うんだろ?」 「そうそう。かわいそうになあ、田崎。」宮野は下卑た笑顔を見せた。和樹は内心、やっぱりこいつは苦手だと思う。 「堀田さんも東京組だったよな、確か。」矢島が言った。  和樹は思い出した。「そういやエミリ、スポーツ推薦で体育大行くって言ってたっけ。」和樹は背後を歩くカノンを振りむく。「なあ、カノン、エミリって東京のどこに住むの?」 「確か……タチカワ?とか言ってたかな。」  和樹は素早くスマホで東京の路線図を検索する。「微妙に近いな。」 「そうなの?」カノンは和樹に駆け寄り、スマホを覗き込んだ。結局全員が立ち止まり、和樹を取り囲んだ。 「俺が住むのが、この西荻窪ってとこ。で、立川がここ。中央線一本。」 「へえ。」カノンは和樹を見て、ニヤリとした。「東京で和樹が何か悪さしたら、エミリが黙ってないからね。」  和樹は画面を消す。「悪さなんかしねえよ。」 「信用できないよね。ねえ、涼矢?」カノンが涼矢を見た。 「一応信用してるけど、エミリはもっと信用できるな。」真顔で答える涼矢。 「だよな。」宮野も同調する。 「おまえら、ひどくない?」和樹は苦笑した。 「信用してるって言ってるだろ。」と涼矢が言う。 「一応ってつけただろ、一応って。」和樹が反論する。 「まあまあ、痴話ゲンカはやめな。」矢島が割って入る。  一同の間に、緊張が走った。「痴話、ゲンカ?」「痴話ゲンカ。」「痴話ゲンカ、か。」カノンやミナミや宮野が口々にリピートした。 「繰り返すんじゃないよ。」和樹が呆れ顔で言う。 「だって、なあ?」「だって、ねえ?」「目の前の現実に」「慣れないというか、な。」「ね。」 「なんで急に息ぴったりなんだよ!」和樹は額に手を当てて、"頭が痛い"というポーズをした。  もう一人の当事者である涼矢は、いつの間にか輪から離れて、高いところに目線をやっていた。「あれがいい。みんなであれに乗ろうよ。」  五人も涼矢の視線の先を見上げる。「観覧車?」

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