91 / 138

第91話 ジェラシー③

 和樹はまじまじと涼矢の顔を見た。  うーん。薄暗くてはっきりとはわからないけど、顔が赤い気がする。心なしか目もウルウルしてて、なんかちょっと色っぽい。こういう表情はベッドの上では見るけれど……なんて、そんなこと言ったらまた「和樹はそんなことばっかり考えて!」って怒られるよな。 「風邪でも引いたか? 顔赤いよ。」  涼矢はさっき和樹にやられたのと同じように、和樹の胸を軽く小突いた。 「なんだよ、それ。どうしてこういう時だけ……。」涼矢は和樹の腕をつかんで、引き寄せた。「かったるいから、答え言うよ。俺、今、すっげえセックスしたい。」 「は? え?」ホント、なんでこういう時に限って。 「スイッチ入った。」 「ど、どのタイミングで。」どこだよ、そのスイッチ。これからはそこ押すから教えてくれよ。 「おまえがこんな道端で抱き締めたりするから。」 「そこから?」 「その後も髪触るわ、耳元で囁くわ、刺激されっぱなし。責任取れ。」 「じゃあ、おまえんち……?」 「ダメ。今日は親父が帰ってきてて、両親揃い踏み。」 「だったら、おまえこそ、帰らなくていいのかよ。」 「いいんだよ、今もどうせ二人で高級ディナーに出かけてるよ。ただいつ帰ってくるかわかんねえからさ。もう、どこでもいいから、連れてってよ。知ってるだろ、そういうとこ。金はあるから。」 「珍しく切羽詰まってんな。」和樹は涼矢の肩を抱いて、歩き始めた。その足取りに迷いはなく、過去の経験を物語る。  涼矢は当然、初めて入るラブホテル。いかにもな外装にひるみつつも、和樹の後に隠れるようにして部屋に入った。入るなり、和樹を後ろから抱きしめた。  和樹が顔だけ涼矢に向けると、涼矢は和樹の唇を貪るように口づける。それと同時進行で和樹のズボンのファスナーを下ろす。まだ、二人とも上着すら脱いでいないのに。 「シャワーとか……。」唇が離れた隙に和樹が言う。 「無理。」涼矢は和樹のペニスに下着の上から触れた。 「ちょっ…。どんだけサカってんだよ。せめてベッドまで行こうぜ。」  まだ二人は部屋の入口だ。涼矢はさすがにそれは了承した。だが、上着を乱雑に脱ぎ捨てるなど、やはりいつもの涼矢らしからぬことをする。  酒飲んで酔っ払ってるわけじゃあるまいし、どうしたよ、涼矢? ま、こういう涼矢も悪くはないけど。そう思いながら、和樹が上着以外の服も脱ごうとすると、ベッドの上に押し倒され、組み伏せられた。 「まじで、そんな勢い?」 「うん。」 「らしくないな。」 「らしくないって何?」涼矢はいつもより荒々しく和樹にキスをし、服の下の裸の体に触れた。それから、和樹のズボンを下着ごと脱がせた。 「ちょっ、早えよ。」和樹は迫ってくる涼矢を肘で牽制した。 「おまえがっ」涼矢は和樹を押さえつけて、声を荒げた。「おまえが、思い出させるからっ。」 「思い…出させた?」 「嫉妬とか、ずっと、閉じ込めていたのに。」涼矢は和樹のシャツのボタンをいくつか外し、胸元をはだけさせると、首筋の例のキスマークを、噛んだ。 「痛っ」 「俺らしいって、こういうことだよ。和樹の今までのこと、全部俺で上書きしてやりたい。今までのどの女より、俺がいいって、俺じゃないとだめって、泣かせて、すがりつかせたいって思ってるのは俺のほうだよ。わかってんの?」 「りょ……」 「また怖いって逃げる? だめだよ、そんなの。許さない。」そう言いながら、涼矢は和樹のアナルに唾液をつけた指を挿入する。 「うあっ。」和樹の身体がビクンと反応する。 「もうこっちのほうがいいんだろ? 女に挿れるより、俺に挿れられるほうが。」 「涼、もっと、ゆっくり……。」じわりと快感がしのびよってくるが、それより先に強引な攻めの痛みが走る。「んっ」痛みのせいで体がこわばり、眉間にしわが寄る。  ふいに涼矢の動きが止まる。「痛い?」 「そりゃ……。」 「だったらなんで、やめろって言わないの?」  和樹は、自分に覆いかぶさるように見下ろしている涼矢を見上げた。「涼矢が……そうしたいなら、いいと思った。」  涼矢は少しだけ目を見開いた。意外な言葉を聞いたかのように。それから、指を抜いて、和樹の上から離れ、ベッドの端に腰掛けた。しばらくの沈黙の後、髪をかきあげながら「ごめん。」と呟いた。

ともだちにシェアしよう!