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第91話 ジェラシー③
和樹はまじまじと涼矢の顔を見た。
うーん。薄暗くてはっきりとはわからないけど、顔が赤い気がする。心なしか目もウルウルしてて、なんかちょっと色っぽい。こういう表情はベッドの上では見るけれど……なんて、そんなこと言ったらまた「和樹はそんなことばっかり考えて!」って怒られるよな。
「風邪でも引いたか? 顔赤いよ。」
涼矢はさっき和樹にやられたのと同じように、和樹の胸を軽く小突いた。
「なんだよ、それ。どうしてこういう時だけ……。」涼矢は和樹の腕をつかんで、引き寄せた。「かったるいから、答え言うよ。俺、今、すっげえセックスしたい。」
「は? え?」ホント、なんでこういう時に限って。
「スイッチ入った。」
「ど、どのタイミングで。」どこだよ、そのスイッチ。これからはそこ押すから教えてくれよ。
「おまえがこんな道端で抱き締めたりするから。」
「そこから?」
「その後も髪触るわ、耳元で囁くわ、刺激されっぱなし。責任取れ。」
「じゃあ、おまえんち……?」
「ダメ。今日は親父が帰ってきてて、両親揃い踏み。」
「だったら、おまえこそ、帰らなくていいのかよ。」
「いいんだよ、今もどうせ二人で高級ディナーに出かけてるよ。ただいつ帰ってくるかわかんねえからさ。もう、どこでもいいから、連れてってよ。知ってるだろ、そういうとこ。金はあるから。」
「珍しく切羽詰まってんな。」和樹は涼矢の肩を抱いて、歩き始めた。その足取りに迷いはなく、過去の経験を物語る。
涼矢は当然、初めて入るラブホテル。いかにもな外装にひるみつつも、和樹の後に隠れるようにして部屋に入った。入るなり、和樹を後ろから抱きしめた。
和樹が顔だけ涼矢に向けると、涼矢は和樹の唇を貪るように口づける。それと同時進行で和樹のズボンのファスナーを下ろす。まだ、二人とも上着すら脱いでいないのに。
「シャワーとか……。」唇が離れた隙に和樹が言う。
「無理。」涼矢は和樹のペニスに下着の上から触れた。
「ちょっ…。どんだけサカってんだよ。せめてベッドまで行こうぜ。」
まだ二人は部屋の入口だ。涼矢はさすがにそれは了承した。だが、上着を乱雑に脱ぎ捨てるなど、やはりいつもの涼矢らしからぬことをする。
酒飲んで酔っ払ってるわけじゃあるまいし、どうしたよ、涼矢? ま、こういう涼矢も悪くはないけど。そう思いながら、和樹が上着以外の服も脱ごうとすると、ベッドの上に押し倒され、組み伏せられた。
「まじで、そんな勢い?」
「うん。」
「らしくないな。」
「らしくないって何?」涼矢はいつもより荒々しく和樹にキスをし、服の下の裸の体に触れた。それから、和樹のズボンを下着ごと脱がせた。
「ちょっ、早えよ。」和樹は迫ってくる涼矢を肘で牽制した。
「おまえがっ」涼矢は和樹を押さえつけて、声を荒げた。「おまえが、思い出させるからっ。」
「思い…出させた?」
「嫉妬とか、ずっと、閉じ込めていたのに。」涼矢は和樹のシャツのボタンをいくつか外し、胸元をはだけさせると、首筋の例のキスマークを、噛んだ。
「痛っ」
「俺らしいって、こういうことだよ。和樹の今までのこと、全部俺で上書きしてやりたい。今までのどの女より、俺がいいって、俺じゃないとだめって、泣かせて、すがりつかせたいって思ってるのは俺のほうだよ。わかってんの?」
「りょ……」
「また怖いって逃げる? だめだよ、そんなの。許さない。」そう言いながら、涼矢は和樹のアナルに唾液をつけた指を挿入する。
「うあっ。」和樹の身体がビクンと反応する。
「もうこっちのほうがいいんだろ? 女に挿れるより、俺に挿れられるほうが。」
「涼、もっと、ゆっくり……。」じわりと快感がしのびよってくるが、それより先に強引な攻めの痛みが走る。「んっ」痛みのせいで体がこわばり、眉間にしわが寄る。
ふいに涼矢の動きが止まる。「痛い?」
「そりゃ……。」
「だったらなんで、やめろって言わないの?」
和樹は、自分に覆いかぶさるように見下ろしている涼矢を見上げた。「涼矢が……そうしたいなら、いいと思った。」
涼矢は少しだけ目を見開いた。意外な言葉を聞いたかのように。それから、指を抜いて、和樹の上から離れ、ベッドの端に腰掛けた。しばらくの沈黙の後、髪をかきあげながら「ごめん。」と呟いた。
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