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第95話 ジェラシー⑦
涼矢は「ハッ」と、嘲笑とも、ほっとした笑い声ともとれる声で笑った。「さすが和樹、経験豊富すぎて忘れちゃうんだね。」
「そこまで経験豊富じゃねえよ。それにしても、自分でもちょっとショック。うーん、綾乃とは来てないと思うんだよなあ……。」
「じゃあ、その前の彼女? 年上という噂の?」
「……の、前、かな?」
「前の前の彼女、ですか。」涼矢はハァ、とため息をついた。「やっぱ、嫉妬なんかしたくねえ。おまえじゃキリがない。」
「あ、でも、おまえ以外にヤッたのはその三人だけだから! 俺、みんなに誤解されてるっぽいけど、三人だけだよ? そんなに言われるほどでもなくない?」
「フォローになってねえし。」涼矢は枕を抱えて、下手な泣き真似をした。「どうせ俺はおまえ一人しか知らない。」
「ああ!」和樹は何か思いついたように、大きな声を出した。「それだよ!」
「それ?」枕を抱いたまま、涼矢が訝しげに和樹を見る。
「おまえとここに来たから、上書きされちゃったんだよ。ほら、おまえ、さっき、俺の過去のいろいろ、上書きしてやりたいって言ってたよな。だから、そうなったんだよ。」
「ああ、なるほど。……って、おまえ能天気過ぎ。」
「涼矢が面倒くさく考え過ぎ。」
「俺に気を遣って忘れたふりしてるの?」
「いや、悪いけどそんな気遣いはしてなくて。」和樹は涼矢の抱える枕を奪い取り、元の位置に戻すと、そのまま涼矢にキスをした。「俺の記憶は、涼矢で上書きされるみたい。」愛しそうに髪を撫でる。「だって、前はどういうセックスしてたかも思い出せない。」
「まあ、ケツいじられて喜んでるセックスではなかったとは思うけど。」
「……涼矢って時々デリカシーのない発言をするよね。」
「ホテルに誰と来たかを忘れる奴にデリカシーを語られなくないけどな。」今度は涼矢が上半身を起こし気味にして、半身を乗せるようにして和樹に覆いかぶさり、耳元で言う。「それに、和樹、反応良くなるじゃない? デリカシーのかけらもないような、いやらしい言葉聞かせると、すぐここ、硬くするでしょ?」涼矢の手が和樹の下半身に伸びる。
「おまえなぁ。」
「お尻に指挿れてくちゅくちゅしたり、乳首舐められたりすると、気持ち良くなっちゃうでしょ?」和樹の亀頭をさわさわと撫でながら言う。
「どこのエロ小説だよ。」強がりを言った矢先に、体がピクンとしてしまう。「ちょ、いいかげんに……。」涼矢の肩を軽く押して離そうと試みるが、微動だにしない。
「ほら、もう、硬くなってきた。」和樹のペニスを本格的にしごく涼矢。
「あっ……。」和樹の息が荒くなり出す。
「なあ、次はさ、ちゃんとおねだりしろよ。」
「…な……何の話。」
「挿れて欲しい時はちゃんと言うんだよ。あれとかそれとかじゃなくて、『涼矢のおちんちん挿れてください』って。じゃないとイカせてやんない。」
「んなこと言うかよ、ふざけん……うわ。」涼矢は片手でペニスを、もう一方の手でお尻の穴を弄りだした。「や、おい、ちょっと涼矢……。」
涼矢はペニスをしごいていたほうの手をいったん離して、さっき和樹が戻した枕を再び取ると、和樹の腰の下に入れた。そして、お尻の指はそのままに、今度は口にペニスを含んだ。
「やめ、だめだって、もうっ。」そう言いながらも、はっきりとは抵抗しない。「おまえ、ホントに今日、発情期だな。」自分の下半身にある涼矢の頭を撫でた。
「らっれ」と、涼矢はペニスを咥えたまま何かをしゃべりだそうとする。
「何言ってるかわかんねえよ。」
口を外す。「だって、いろんな感情見せろって。さっき和樹が。ヤリたいってのも、感情だろ? それに和樹のここ、舐めてほしそうだし。」
……付き合いだしてから、いつも涼矢はこうだ。足の指まで舐めては俺が舐めろと言ったからだと言い、嫉妬してほしいと言えばしてると言い、俺の言うことはなんでも聞くと言って、実際そうなんだけど、なんか違う……よな。責任は俺になすりつけて、結局は自分の都合優先、つうか。
「おまえ、なんでもかんでも俺のせいにすんなよ。」和樹は涼矢の髪の毛をつかみ、顔を上げさせる。「おまえが俺のチンコ咥えたいんだろ?」涼矢の顔が赤らんだ。人には散々なこと言ったくせに、そのおまえが、なんでこんなんで赤くなってんだよ。和樹はそんな涼矢を見て、腹立たしいような、それでいて滑稽なような気分になる。「おまえこそ、挿れたくなったらちゃんと言えよ。俺のケツにチンコ挿れさせてくださいって。舐めたかったら、舐めさせてくださいって言え。」和樹はかつて誰にも言ったことのないような言葉を言った。単に涼矢をやりこめたいというこどもじみた感情でしたことだが、実際に口にすると、その行為に、ほんの少しだが、興奮を覚えた。
涼矢の紅潮した頬が一層赤くなった。してやったりと喜ぶ和樹だが、その涼矢の口元が薄く笑っていることに気付くのに、そう時間はかからなかった。
「和樹。キスしたい。キスさせてください。」涼矢は舌なめずりをした。
「だっ。」ひるんでしまうのは、やはり、和樹のほうだった。
「だめ?」涼矢の顔が上から迫ってきた。もう、あと数センチで、接触する。
「ど、どうぞ……。」
涼矢の舌が、ねっとりと和樹の舌に、からみついた。
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