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第96話 ジェラシー⑧
今更のキス。もう、何度もした。触れ合うだけの優しいキスも。ぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てて舌を絡めるキスも。お互いの唇も、歯も、舌も、もう知っている。だからもう、キスだけじゃ物足りない。キスなんて、その先のメインディッシュのための前菜に過ぎない。
そのはずなのに、和樹は今、脳の奥がじんじんするほど、涼矢のキスに酔っていた。涼矢は、両手で和樹の顔を包むようにして、やけにゆっくりと、長く、口づけていた。舌をからめたりもすれば、舌は使わずに唇だけで和樹の唇を小刻みに挟んだり、かと思うと舌先で前歯を撫でるように舐めたり。時折、涼矢が唾液を飲み込む音が喉の奥から聞こえた。
ようやく涼矢の手が、和樹の顔から離れていく。だが、肌から離れることはない。肌に沿わせながら、片手は和樹の鎖骨に、もう一方の手は肩に。唇は顎、首筋、鎖骨、肩と順繰りに口づけて行く。
「……くっ。」徐々にまた体温があがっていくのを、和樹は感じていた。
「乳首、舐めさせて?」
「す、好きにしろっ。」
涼矢が舐めはじめた。和樹が顎を引いて涼矢のほうを見ようとすると、涼矢は上目遣いで和樹を見ていて、目があった。これ見よがしに舌先を出して、乳首を舐めている。ツンと立っている自分の乳首、それを嬲るように舐めている涼矢の舌、その様子を見せつけ、和樹の反応を楽しんでいるに違いない涼矢の目。
もう、だめだ。和樹は早々にあきらめた。もう俺の負けでいいや。今はただ、このままに快楽に浸りたい。涼矢の思うツボでもなんでも構うものか。「あっ……はぁっ……。」和樹の口から甘い喘ぎがこぼれ出す。
「気持ちいい?」
「うん……気持ちい……。」
「良かった。」涼矢は優しく微笑んだ。和樹を気持ち良くできたことを素直に喜んでいるような笑顔。巧みに煽るような淫靡さはそこにはなく、逆に和樹はドキリとした。『和樹が好きだから、和樹の言う通りにする』。そんな涼矢の言葉は、自分に都合よくことを進めるための「駆け引き」の意味なんかひとつもなくて、本当の本心から出てきた言葉なのか? 涼矢、おまえ、そこまで俺に惚れてるのか? だとしたら、勝手に勝負みたいにとらえては、俺の負けだなどと思ってる俺のほうが、ずっと不純で、利己的だ。そもそも俺は何の勝負をしていたんだ。性的欲求? 男のプライド? そんなの、どうだっていいのに。
涼矢の手が、和樹の足の付け根に伸びて、性器の際をそっとさすりはじめた。「次はこっち。」涼矢が少し身を乗り上げて、涼矢の耳元まで顔を寄せた。「和樹のおちんちん、舐めさせてください。」
その声だけで和樹はイキそうになった。これが何の企みもない「本当の本心」なら、それはそれで問題かもしれないと思う。そう思っては自分の身勝手さを呪う。
和樹は涼矢の"おねだり"には答えず、突然涼矢に覆いかぶさり、激しくキスをした。涼矢がさっき自分にしたようなキスを倍の速度で行い、涼矢の鎖骨や首や肩にもキスをした。乳首を舌先でねぶった。「あっ……あぁんっ、和樹ぃ……。」涼矢の甘い喘ぎが、更に和樹を加速させる。
「俺に舐めさせて。」和樹は涼矢の股間のものを握る。
「え……。」涼矢が熱っぽく潤んだ目で和樹を見た。「やだ。俺が先。」しかし、返ってきたのは、予想外の拒否。
「涼矢をもっと気持ち良くさせたい。」和樹が言う。素直な気持ちだった。
「んー。じゃあ、二人でする?」さらりと言った涼矢の言葉が一瞬理解できない。が、一瞬の後には理解した。「和樹はやったことある?」
「……ない。」
「俺ももちろんないけど。どうする?」言っている時にはもう、涼矢はごそごそと動きだし、後ろ向きになって和樹にまたがった。
「……それでお願いします。」
涼矢は腰を浮かせて和樹の顔の上に来るようにし、上体は下げて和樹の股間に口元が来るようにすると、躊躇なくほおばった。
「はぅっ。」視界の大胆さと、いきなりの下半身への刺激に和樹は全身をこわばらせた。慌てて目の前にある涼矢のペニスを口に入れる。
「あっ。」その瞬間には、涼矢も声を上げて反応を示した。
涼矢のペニスは既に硬くなっていて、先端からは先走りのしずくが垂れている。手でその液を涼矢自身のペニスに塗りつけるようにしてしごきながら、舌では睾丸とペニスの境目から根元、裏筋と丁寧に舐めていった。くぐもった声で喘ぎながら、時々ピクンピクンと全身を震わせる涼矢を愛しいと思う。その涼矢もまた、同様のことを和樹に対して行っている。涼矢はやがて和樹のアナルのほうにも、舌先でつついたり指を軽く差し入れたりなどの刺激を与え始めた。
和樹は涼矢のペニスを舐めながら目を開けて、見る。こんな明るい中で、こんな至近距離でまじまじと見たことはなかった気がする。これが自分の中に入ってくるのかと思うと、今更ながら驚いてしまう。これをつっこまれて、抜き差しされて、イカされる。それがたまらなく快感で、幸せで。
「涼、矢……。」和樹の呼びかけに、涼矢が動きを止めた。「挿れて……。涼矢のこれ、涼矢のおちんちん、挿れて、ください。」口にした途端、自分のものが更に硬くなったのがわかった。
涼矢は和樹の上から降りて、向きを変える。「良く言えました。」そう言って和樹の両脚を広げた。「いっぱい、気持ち良く、なって。」涼矢は和樹の中へと挿入して行った。
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