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第97話 My sweet home ①
「あっ……あっあっ……いっ…いいっ、涼矢、気持ちいいっ」入ってすぐ、和樹は喘いだ。
「うん、俺も、気持ちいいよ、和樹。」和樹の腰を抱えて、激しくグラインドさせる。
挿入されている最中は……特にこうして顔の見える体位の時は、なんだか気恥ずかしくて目を閉ざしていることの多い和樹が、今日はずっと涼矢を見つめていた。汗ばむ肌。必死な息。紅潮した頬。その熱量の全ては自分のために注がれているのだと思うと、いくら激しくされても、可愛く思えてならなかった。涼矢は限界に届きそうになると少しスピードを緩め、和樹の反応を確かめるように視線を送る。その何度目かに、今日に限って和樹が終始自分から目をそらしていないことに気づいたようだ。
「和樹……?」
「大好きだよ、涼矢。」和樹は手を伸ばして、涼矢の首に腕を回す。
「うん……。」ちょっと泣きそうな顔で涼矢が微笑む。
「奥まで……いっぱいにして…ください。」和樹が言う。
「これ以上したら、すぐイッちゃう。」と涼矢が言うと、和樹は回した腕をぐいっと引き寄せ、涼矢の顔を自分に近づけた。「イキたい。イカせてください。」
涼矢はフッと笑うと、数回腰を動かした。昂められるだけ昂められていた二人は、それだけですぐにフィニッシュを迎えることとなった。
「ごめん、また生で中出ししちゃった。余裕なかった。」
「大丈夫。」和樹は涼矢の頬を撫でる。「なんかもう、収まんねえから、そのまま次、しよ。」
そう言う和樹の股間は、またぞろ硬くなってきていた。「あら、本当。若いわね。」と涼矢が笑う。その口調に、今度は和樹が笑う。
「涼矢は、可愛いな。」
「そう? 今日はみんなにカワイイカワイイって言われて、複雑。」
「本当言うと、俺だけの秘密にしておきたかったけどな。おまえの可愛さは。あんまり他の奴に愛嬌を振りまかないでくれよ。俺、嫉妬するぞ。」
「嫉妬ってねえ……。」涼矢は頬を撫でる和樹の手に、口づける。「恋愛においては、一番のスパイスって言うし? セックスを盛り上げるには大事らしいよ? あ、俺が和樹にそんなこと言うのは、なんて言うんだっけ……釈迦に説法、かな? 経験豊富な和樹さん。」
「上書きされたから、今となっては俺の経験人数はおまえ一人だよ。」
「ずるいな。」
「いいから、そんな話は。続き、しよ。あ、してください?」
「もう。」涼矢は呆れたように笑ってから「大好き。」と言って、和樹を抱きしめた。
「あまり、時間、ないからさ……。」何気なく和樹が言ったセリフは、ホテルの休憩時間のことだ。二人ともそうとわかってはいたが、同時にもうひとつの意味を見出してしまう。
少しの沈黙の後、涼矢は「うん。」と言い、和樹を抱きしめる力を強めた。
チェックアウトの時間が来て、二人はホテルを後にした。出る時は顔見知りと鉢合わせやしないかと少し緊張したが、支障なく済んだ。
「ああ、帰りたくないな。」と和樹が呟く。
「うん。」
なんとはなしに、涼矢の家の方角に向かって歩く。バスなら早いが、もう最終バスは行ってしまって、タクシーか徒歩しかない。タクシーに乗る習慣がないというのもあるが、二人で過ごす時間をできるだけ長く取りたい気持ちも手伝い、自然と「より遠い涼矢の家」に「徒歩で向かうこと」を選んでいる二人だった。
「あ、でも、親父さん、帰ってきてるんだろ? 久しぶりなんじゃないの?」
「正月以来。」
「それはまた、本当に久々だね。おまえ、俺には家族との時間を大切にしろって言っておいて、自分は随分薄情なんじゃない?」
「苦手なんだよ。」
「へえ。厳しそうだよな、検事って。怖い人?」
「俺に対しては、全然厳しくないし、怖くもない。」
「放任?」
「でもない。溺愛されてる。」
「へええ。」
「遅くにできた子だから、可愛いんじゃないの。あと二、三年で還暦だぜ、親父。」
「可愛がられてるのに、なんで苦手? もしかして、俺とのこと? そんなに可愛い息子が彼氏なんかいると知れたらヤバイよな。そういうこと?」
「いや。……あ、でも、それもあるか……。」涼矢が少し考え込む。その様子を不安そうに見ている和樹。涼矢はそんな和樹に気づくと、ハッとした。「そのことで二人が引き離されるとか、そういう心配はないから。」
「じゃあ、なんで。」
「ええと、うちのおふくろのノリは、だいたいわかったよな?」
「うん。ブルドーザー……いや、理解のある、すごい人だと。」
「親父はもっとすごい。」
「へ?」
「つまり、もしおまえとのことを知ったら、たぶん一晩で同性愛に関するあらゆる文献を読破して、数日後には課題と対策についての考察をレポートにまとめて俺に渡してくる。」
「え……。」
「それで、俺の両手をひっしと握り、言うんだよ。」涼矢は和樹の両手をひっしと握り、いつもより声を低くして言った。「涼矢、私はいつでもおまえの味方だよ。困った時にはいつでも頼っていいんだからね。」
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