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第105話 ピアス④
「きっつ。」和樹が呟く。「気持ちい。」
「もっと……もっと強くして。」
和樹は涼矢に挿入したまま、涼矢の体を半回転させて、後背位の姿勢をとらせた。更に肩甲骨を軽く押して上半身を低く下げさせると、涼矢は何かにしがみつきたそうに腕を伸ばした。その伸ばした腕を和樹がつかむ。右腕を捕らえられた涼矢は、今度は左腕を伸ばす。その左腕も和樹はつかむ。両腕の自由も奪われて、涼矢は微妙に不安定な姿勢になった。ほかに安定できる術がなく、頭を枕に押しつける。和樹は涼矢の両腕を手綱のようにつかみ、腰を動かした。そんな風に腕を引っ張られた涼矢は体を反らせることになり、更に不安定になる。不安定だからこそ、体の中心を貫く和樹のペニスを意識せずにはいられない。
激しく喘ぐ涼矢の肌がじっとりと汗ばみ、なまめかしい。
「あ……もう、イキそ。」和樹はそう言うと、数回のグラインドでフィニッシュした。息を落ち着かせてから、まだ終わっていない涼矢のペニスを握ってしごくと、ほどなくして涼矢も果てた。
後始末を終えた二人は、隣り合って横になった。どちらからともなく、手をつないだ。
和樹が、涼矢の横顔に話しかける。「ピアスホール開けるんなら早くしないと。病院でやる?」
「ピアッサー買ってくれば、自分たちでできるんじゃない?」
「自分で?」
「自分で。」
「自分で穴開ける?」
「そう、それか、お互いにやってもいいけど。」
「……。」和樹は不安いっぱいの顔で涼矢を見た。
「ああ、和樹はできないのか。じゃ、俺が二人分やるよ。」
「やったこと……?」
「あるわけない。」
「ちゃんとできんの?」疑わしそうな目で涼矢を見る。
「ビビり過ぎ。女の子だってやってるよ。エミリだって、学校にはしてこなかったけど、遊園地の時、してたよ。」
「よく見てんな。」
「気付くだろ、ふつう。」
「エミリに頼もっか?」
「やだよ。どういう立場で頼むんだよ。」
「……そ、それもそうだよな……。」
「そんなに不安なら、いいよ、ピアスじゃなくても。」
「いや、ピアスがいい。」
「もう。」涼矢は和樹をひと睨みすると、何か思いついたような顔をして、スマホを取りに行った。何か入力している。
「何してんの。」
「心当たりがある。」
「ピアスに詳しい人?」
「柳瀬の弟。」
「何者だよ。」
「柳瀬と年子なんだけどさ、まあ基本ヤンキーで、バンドやるんだとか言って中学の頃からピアスつけ始めて、会うたび増えて行って、去年かな、最後に目撃した時には片耳がルーズリーフみたいになってた。」
「ピアスに詳しそうではあるけど、大丈夫なのか。」
「家近いし、あいつヒマだから呼べばすぐ来ると思うし、ちょうどいい。頭は悪いけど心根の優しい子だから大丈夫だと思うよ。頭は悪いけど。」
「なぜ最後のことだけ二回言った。」
「ほら、もう返事来た。」涼矢が見せた画面には、『ピアスホール開けたいんだけど、できる?』という問いかけに『できます。今からそっち行きます』と書かれていた。
「……舎弟?」
「柳瀬と遊ぶといっつもいるんだよ。ファッションヤンキーだから夜遊びもしないし、酒もたばこもケンカもしない。で、たまに勉強教えたりしてたら懐かれた。勉強は定着しなかったけど、俺が勧めた音楽には興味持ってくれて。ああ、そう思うとバンドマン目指すなんて道を踏み外したのは俺のせいなのかな。でも、アルファベットも覚束ないところから高校合格できたのは俺のおかげだと思うしなあ……高校はやめちゃったみたいだけど。」
「弟の情報はもういいや。まずは服を着よう。家が近いんだろ? で、すぐ来るんだろ?」
「ああ、そうだな。」二人とも全裸だった。
30分もしないうちに、柳瀬とその弟がやってきた。涼矢がドアを開けると二人とも慣れた様子でずかずかとリビングまで入ってきた。
「俺が呼んだの、ポン太だけなんだけど。」と涼矢が柳瀬に言う。
「いいじゃん、別に。お、やっぱ都倉も一緒なんだ。ポン太、挨拶しろ。都倉さんだよ。俺のツレ。」
「ちっす。」金髪に派手なジャージに大量のピアス。ポン太と呼ばれた少年は、いかついファッションとはちぐはぐなほどの童顔で、兄の柳瀬とはあまり似ていないが、どちらも美形とは言い難い、素朴な顔立ちだ。
「これ、うちの弟。ポン太。フリーター。」
「あ、ども、都倉です。」
「俺とこいつと、二人分、お願いしたいんだけど。」涼矢は早速本題に入る。
「初めてっすよね。」ポン太は二人の耳をジロジロと見た。「片耳でいっすよね。」
「ふつう、どうだっけ。」と和樹が涼矢に聞く。
「男は左耳に一個ってのが多いっす。」とポン太。
「じゃあ、それで。」涼矢がポン太に答えた。「何も知らないから、全部お任せでいい?」
「ういっす。じゃ俺、ピアッサー買ってきます。金だけ先ください。」
「話が早いな。いくら。」
「一個1,500円あれば充分っす。ファーストピアス込みで。二人分だと、ええと。」
「3,000円な。」涼矢が財布を取りに行こうとするので、和樹が「俺が」と言いかけるが、「セカンドピアスはおまえが買ってくれ。」と言われる。
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