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第112話 カウントダウン⑤
「健康だけど、健全ではないなあ、俺ら。」
「今日なんか、朝っぱらからエロいことばっかしてるし。」涼矢は、外して放置したままだったタスキを、くるくるときれいに巻いた。巻き終わると、感慨深そうにそれを見ながら「ずっと縛り付けておきたかったな。」と言った。
「だから、それの代わりが、ピアスだろ? 束縛しあってるみたいだって、さっきおまえが言ってたじゃない?」
「そっか。」
「俺さぁ。」和樹は涼矢の手を握った。「束縛されるのが、本当、嫌だった。女の子とつきあってた時は。でも、今は、なんかちょっと、嬉しいんだよ、そういうの。」
「……俺ってやっぱり重いよな。」
「や、だから、今は嬉しいって言ってるでしょ。」
「ちょっとだけ、だろ。」
「細かいな。」
「どうせ細かいよ。ストーカー気質で変態でサディストだよ。」
「……薄々思ってはいたけれど、おまえって、時々、すげえ面倒くさいのな。」
「はいはい、細かくてストーカー気質で変態でサディストで面倒くさい奴です。」
「可愛くてエロいも追加しといて。」
「それは和樹だろ。」
「はいはい、可愛くてエロくてイケメンでーす。」
涼矢は半身を起こして、和樹を上から見た。「だよね。だから、大好き。」
「なんでそうなるんだよ。ボケたんだからつっこめよ。」
「つっこんでいいの?」涼矢が和樹の下半身に手を伸ばして、触れる。
「意味が違う! セクハラ反対!」
「セクハラは親告罪なので、嫌だったら、自分で訴えてください。」涼矢は和樹に口づけた。
「マジで面倒くさい。」和樹も涼矢の後頭部に手をやり、ぐいっと引き寄せてキスをした。「俺じゃないと無理だろ。おまえみたいなややこしい奴とつきあうの。」
「うん。」涼矢はそのまま和樹に上半身を預けた。「和樹じゃないと無理。」
和樹は涼矢の頭を撫でた。撫でているうちに無性に愛しさがこみあげてくる。
このでかい図体をした男を見て、愛しいだの可愛いだのと心から言えるのは、実の親を除けば世界に俺一人だろ? その実の親だって、涼矢の本当に一番愛しい姿は知らないんだ。俺の名前を呼ぶ甘い声だって、汗ばんだ熱い肌の心地よさだって、知らないんだ。俺だけが知ってる。俺だけの、涼矢。
「涼矢。」
「うん?」
「サディストのきみには物足りないかもしれないけれどさ。」頭を撫でていた手を、こめかみから、顎へと滑らせ、その顎をくいっと持ち上げた。「ふつうの、優しい、愛のあるセックスをしてもいい?」
「もちろん。でも、今日は朝からヤッてばかりで疲れてない? 大丈夫?」
「長距離ランナーの持久力を舐めんな。」
「部活の基礎練はサボってたけどな。」
「おまえこそ、勉強ばかりして、体力落ちてんじゃないの。」
涼矢は和樹の肩に手をかけた。「そうかも。だから、うんと優しくして。うんと優しくするから。」
和樹はため息をひとつついた。「なんかなあ、おまえは、ずるいよ。」和樹は涼矢を抱きしめてから、優しく、キスをする。「嫌だって断れないことばかり言うし、嫌だって言ってもやめてくれないし。ややこしくて、面倒くさくて、可愛くて、どうしようもない。」もう一度キス。さっきよりは強く。
涼矢の柔らかな唇に、自分の唇を押しあてる。その圧を徐々に上げては行くが、乱暴にはしない。こちらが口を薄く開くと、涼矢も同じようにする。舌を入れると、また、同じように。長い腕を撫でる。鎖骨のくぼみに舌を這わせる。髪に顔を埋める。耳の裏に口づける。背中から脇にかけて指先でなぞる。腰から臀部、太ももから脛、ふくらはぎと、発達した筋肉に沿って、マッサージでもするかのように手のひらを滑らせる。時間差で、涼矢が同じ行為を返してくる。お互いにこれといった強い刺激をせず、ただ、少しずつ呼吸の間隔は短くなっていく。
和樹の真似をしていたはずの涼矢が、ふいに違う行動を起こした。脛に触れ、ふくらはぎを撫でた次のことだ。和樹はそこからまた口づけに戻ったが、涼矢は和樹のくるぶしあたりを握り、足指を舐めた。
「あ。」和樹ははっきりと声を上げた。足のつま先から電流が流れてくるようだ。
涼矢は太ももの内側を舐めた。それから、付け根の、例のホクロに口づけた。和樹の足指が反射的にピンと伸びた。涼矢は和樹の腰を持ちあげる仕草をする。四つん這いになれという意味であることは和樹にもわかる。お互い言葉には出さないが、和樹は言う通りにした。
次に涼矢が舌先を這わせたのは、和樹のアナルだ。
「んっ。」和樹が敏感に反応する。涼矢はそこを開いて、中心に舌を挿れる。「あっ…あっ…。」
和樹の喘ぎを聞きながら、涼矢は片手で自分のペニスをしごきはじめた。
「……涼……あ…あん…や……。」和樹も、右手で自分のペニスを握る。
涼矢は顔をそこから離し、指を挿入した。前回の挿入からさほど時間が経っていないそこは、あっけなく指を受け容れた。
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