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第124話 Orange sky , Blue sea ④

 涼矢の部屋で、二人は立ったままキスをした。和樹が、ゆっくりと涼矢の服を脱がせた。上を脱がせ終わると、今度は涼矢が和樹の服を脱がせた。そんな風に交互にお互いの服を脱がせて、二人とも全裸になる。涼矢が和樹の手を取り、ベッドに誘う。和樹が先に横たわり、涼矢が上からキスをした。二人とも何も言わなかった。言葉を交わすと、その瞬間に二人だけで構築されたこの世界が壊れてしまうような、そんな緊迫感が二人の間に漂っていた。  涼矢が和樹への口づけを何回かした後、愛しそうに頬を撫でた。それからピアスのある耳たぶにキスをした。首筋に、肩に、胸にキスをした。和樹の手はそんな涼矢の背を這い、唇は涼矢の肩や胸や腹に触れて行った。二人はお互いの体を丁寧になぞるように、愛撫して、口づけて、舌を這わせた。 「……は…あ……んっ……。」先に喘ぎ声を漏らしたのは和樹だった。乳首を軽く噛まれながら、ペニスに触れられた時だ。涼矢はそのまま和樹の下腹部へと移動し、ペニスに舌先を当てた。それまで柔らかく穏やかな刺激が続いていたところに、直接的な強い刺激。和樹は全身をビクンと震わせた。「や……あっ……。」涼矢は和樹の根元を支えながら、舐めはじめた。その舌の音が響くごとに、和樹の喘ぎ声も抑えが利かなくなっていく。 「気持ちいい?」涼矢が口にしたその言葉で、二人だけの閉じられた世界が壊れることはなかった。 「……うん。」和樹の手が涼矢の髪に触れた。優しく触れたはずの手が、突如として激しさをまとう。和樹は涼矢の髪をつかんで、顔を上げさせた。「もっと咥えて。奥まで使って。」 「ん。」後頭部を押しつけられ気味になりながら、涼矢は和樹の指示通りに、ディープスロートを始める。唾液が口の端からあふれてきて、動かすたびに水音を立てた。ついさっきまでの穏やかな愛撫とは一転して、二人はあっという間に激しい劣情の中に飛び込んでいく。 「あっ、ああ、いいっ、涼矢っ。」和樹はそう口走り、ふと、「まだ涼矢の矢を言える余裕がある」などと思い、一人でおかしく思った。    余裕なんかなくしたい。もっとわけわからなくなりたい。淋しさと向き合わないで済むように、できるだけ激しいセックスがしたい。そんな気持ちと、今日ぐらい、可能な限り涼矢に優しくしたい、お互いを慈しむようなセックスがしたいという気持ちとがせめぎあった。心の片隅では、そんな風に思って優しくしようものなら、また「愛のある、優しいセックス」なんてからかわれるかな、などとも思う。  涼矢は、どうしたい?  涼矢を、どうしたい?  和樹は自分の下半身に顔を埋める涼矢を見下ろす。涼矢は動きの激しさとは対照的に、ひどく虚ろな目で、和樹のそれを咥えていた。毎日何人も相手にして、心を殺すことが常態となった売春婦がいたら、もしかしたらこんな表情でこの行為をするのではないか。そんな妙な連想をして、ぞっとした。それぐらい、涼矢の目はなんの感情も映していなかった。 「涼矢、もういい。」和樹がそう声をかけても、涼矢は動きを止めない。「もういい。」和樹は膝を立てて、涼矢の身体を押しやった。やっと和樹の声が届いたかのように、涼矢が顔を上げた。その瞬間の涼矢の目は、和樹を通り越してもっと遠くを見ているようで、ぼんやりとしていた。数秒して、ようやく和樹と目が合う。合うけれども、やはりそこには虚ろな穴が開いているだけのような、そんな目だ。 「おい、大丈夫か?」 「良くなかった?」と涼矢が言う。質問の内容とは裏腹に、まるで親に叱られた小さなこどものような、心細そうな表情を浮かべて。 「良かったよ。」その証に、和樹の股間は屹立している。たった今のことで少し萎えかけてはいるが、涼矢には和樹が十分に反応していたことはわかっているはずだった。 「じゃあ、なんで止めたの。」 「だって……。」涼矢の様子のおかしさを指摘したら、涼矢は自分を責めてしまうのだろう。「あのままだと、すぐ、イッちゃいそうだったから。」 「イケばいい。」涼矢はそれを半ば吐き捨てるように言った。「何度イッたっていいだろ。俺、何度でもできるよ。」 「涼矢。」和樹は身体を起こして、涼矢の肩を抱いた。もっと、大事にしたい。大切に涼矢と抱き合いたい。それは、穏やかに触れ合うセックスという意味でなくていい、この間縛られながら辱められても、和樹にとってあの時の涼矢は間違いなく「優しかった」し、あれは「優しい」セックスだった。でも、今のは違う。違うのだけれども、涼矢にそれをどう伝えればいいのか。何も考えられないぐらいひどく激しくしたい。淋しさが付け入る隙がないように。その気持ちも痛いほどわかる。自分もまたそう思っているのだから。でも、今の涼矢は違う。 「涼矢。」和樹はもう一度涼矢の名を呼ぶ。「ちゃんと、俺のこと、見て。目を離さないで。俺を一人にしないでくれ。」和樹は涼矢に口づける。涼矢の目が一瞬見開いた。次に和樹と目が合った時には、感情がきちんと身体に戻ってきたかのように、目に光が宿っていた。 「和樹。」涼矢からキスをする。「ごめん。なんか……飛んでた。」

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