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第126話 Orange sky , Blue sea ⑥

 その直後には背中がふと軽くなる。涼矢が体を起こしたせいだ。本格的に奥に挿入するために。背中に感じていた体温は遠のいたが、つながっている部分は、その分、熱い。涼矢は更に和樹のペニスにも触れる。後ろも前も同時に刺激されて、和樹は淫らな声を上げた。 「あっ、ああっ……んんっ、涼、いい、気持ちいいっ……。」 「俺のこと、好き?」涼矢から、最中にそう聞かれたのは初めてだが、そんなことに頓着している余裕はない和樹は、「好き」と即答した。 「もっと強くしていい?」 「うん」と言うと、間髪を入れずに涼矢の動きが激しくなった。「やっ、あっ、…涼っ……もっと、強くして、いいからっ」  涼矢はペニスのほうに触れていた手を外し、バックに集中して、更に動きを激しくした。 「もっと」「奥」「強く」喘ぐ合間に、和樹のそんな言葉が聞こえる。そして、涼矢の荒い息。二人のつなぎ目がこすれるたびに立てる水音。それらが重なり合い、次第に音量が大きくなる。「あ、イク。」と涼矢は短く言うや、和樹の中に射精した。予告する余裕もなくフィニッシュを迎えてしまった涼矢は、しばらくそのままの姿勢で肩で息をしていた。それから和樹もイカせるべく、再びそれを握ろうとした。  しかし、「それ、やんなくていい。」と和樹が言った。 「でもまだ」 「すぐ次、イケるよな?」 「うん。」 「じゃ、もっかいしてよ。中出ししたばっかでローション要らねえだろ。あ、体位ぐらい変えるか。」和樹は自分から仰向けになると、股間を強調するように足を開いた。 「エッロ。」射精したばかりの涼矢だが、またぞろ股間が熱くなる。「そこまで言うなら、ついでに自分の手で開いてみせて。」  涼矢の卑猥な要求に素直に応え、和樹は自分の手で尻を左右に開いた。今注がれたばかりの白濁液がとろりと流れ出てくる。「挿れて。涼矢の、欲しい。」そんなセリフさえ自発的に口にした。 「そんなに煽ったら挿れる前にイッちゃうよ。」 「だめ、俺の中でイッて。全部俺の中に出して。」 「マジかよ。」涼矢は和樹の両脚を抱え、腰を少し浮かせるようにして、再び激しく挿入した。 「あっ、いい、涼、すげ、いい。」 「イケそう?」 「ん……もっと強くして。」 「和樹が壊れちゃうよ。」もう既に、もっと強くと何度もねだる和樹に抗えず、相当激しく和樹を攻めていた。 「壊れねえよ、大丈夫だから。」和樹は和樹の腕を強くつかんだ。「壊れてもいいから。」  涼矢は「ふざけんな。」と呟いて、和樹の中にグッと押し込んだ。「早くイケって。」涼矢が和樹のペニスに触れた瞬間、ホウセンカの種が弾けるように、和樹が絶頂を迎えた。それを見て、涼矢もまた和樹の中に出した。  部屋に響くハアハアという荒い息は、最早どちらのものとも判別つかない。涼矢は枕に顔を押しつけるようにうつぶせに倒れこんだ。その涼矢の頭を、まるでラグビーボールでも抱えるように、乱暴な勢いで和樹が抱いた。 「苦し。」和樹の胸で涼矢が苦笑しながら言った。 「休むな。もうスタミナ切れかよ。」そう言う和樹も息がまだ整っていない。 「おまえこそ。」  目の前のものを見たくないだけだ。二人ともそれを知っていた。時間が経過していくのを忘れたいだけだ。  お互いに憎まれ口を叩きながら、離れない。からみあうように抱き合う。  二人で抱き合って、キスして、セックスして、細胞が、混じり合っていく。  ふいに涼矢が上半身を起こす。それからティッシュを手にしたかと思うと、和樹の足を軽く開かせた。  股間の様子を見て「ドロドロ。」と呟く。 「いいよ、もう。どうせ次もするだろ。」 「だめだよ。」涼矢が和樹のそこから精液をかきだしはじめた。たちまちティッシュの山ができる。 「いいって。」 「このタイミングで体調悪くなったら困る。」 「ハライタ起こせば、行かなくて済むかもよ。」 「そんな期待をするぐらいなら、とっくに俺がおまえを刺すなり監禁なりしてるよ。」涼矢はそんな物騒なことを言いながら、丁重に和樹の事後処理をしていた。 「優しいんだか犯罪者だかわかんねえ発言だな。」 「俺のせいで和樹のお腹が痛くなると思うと耐えられない。和樹、痛いの苦手なのに。」 「……優しいねと素直に言えないのは何故だろうな。」 「ふん。」涼矢は鼻で笑った。「和樹、ちょっと力入れて。」 「は?」 「自力で俺の精液、出してみて。中にまだ残ってる。」 「なっ。」 「やって。」涼矢の声には有無を言わさぬ力があった。やっぱりこいつ、全然優しくない。和樹は心の中で毒づきながら、言われた通りに下腹に力を入れた。 「へえ、上手。ちゃんと出てきた。」それを拭き取りながら、涼矢が言う。「すっげ、エロいんだけど。和樹さん、今日の煽りは半端ないよね。」涼矢は和樹の耳元まで顔を寄せた。「最後だから、大サービスしてくれてるの?」  和樹がムッとして、涼矢の顔を両手で挟み込んだ。「最後じゃねえし、大サービスでもねえよ。これから先だって、もっとすげえことやってやるよ。」  涼矢が吹き出した。「期待しちゃう。」 「おまえ、馬鹿にしてるだろ。」 「してないよ。俺なんか少し前まで何も知らない童貞クンだよ。和樹にいろいろ仕込まれちゃっただけだもん。」 「嘘つけ、俺はこんな。」 「こんな、何?」 「だから、そういう。」和樹は急に恥ずかしくなり、黙り込んだ。 「あーもう、可愛い。」涼矢は和樹に抱きついた。「どうしたらいい? 何してほしい? なんでもする。嫌なことはしないから、何でも言って。」 「嘘ばっかり。」  涼矢は笑った。「本心で言ってるよ。和樹は俺の王子様で、俺は下僕だからね。」 「だからシモの世話までしてくれんのか。」 「そうですよ。」涼矢は使い終わったティッシュをゴミ箱に捨てに行き、戻ってくるとベッドの脇に跪いて、和樹の手を取り、甲にキスをした。「私のすべては、あなたのものです、王子。」

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