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第131話 光射す、その先の。③
涼矢は既に和樹の性感帯を把握していて、戸惑うことも、ためらうこともなく、的確にそこに触れてくる。どこをどう触れたら「良い」のか、今では和樹本人より知っているぐらいだ。触れられるたびに和樹の「良いところ」はより敏感になっていくし、しかも以前はさほど感じなかったところにまでエリアを拡張し続けている。
たとえばふくらはぎを、マッサージでもするように下からさすりあげる、そんな行為が官能的な意味を持つようになったのは、ほんのここ数日のことだ。
今、和樹の下腹部を滑っている涼矢の手。それは間もなく更に際どいところを攻めに来るのだろう。そんな和樹の予想に反して、その手がふいに離れた。
涼矢は和樹の足もとに移動して、足首を持った。それから足の指を口に入れて舐め始めた。あの日、そこを舐めろと言った和樹の指示に涼矢が従って以来、和樹はそこへの刺激にひどく敏感になっていて、今ではその行為をされると総毛立つような快感を得るようになった。涼矢もそれをわかっているからこそ、愛撫のバリエーションにそれを加えたのは間違いない。
「足を舐める」というのは、支配と服従を象徴する行為だ。通常なら、舐めさせている和樹が支配者であり、舐めている涼矢は従属者だが、二人の関係は明らかにそれとは逆転していた。和樹は涼矢にそれをされると、犬が飼い主を前にしてしっぽを丸めてしゅんとするが如くに、涼矢に逆らえない気分になる。
和樹は、さっきの件で無性に涼矢に腹が立っていた。「俺を言い訳にするな」という涼矢のセリフは和樹の神経を苛立たせ、このまま素直に快感に溺れる姿など、意地でも見せたくないと思わせた。
気持ちいい。逆らえない。でも、快感に喘いでやったりしない。和樹は足の指先から這い登ってくる快感に、唇を噛んで耐えた。
一方でいつまでもそんな強情を張れないこともわかっていた。
こんな風に散々刺激された挙句、ペニスをこすりあげられ、フェラのひとつでもされれば、俺はあっけなく陥落するんだろう。喘ぎ声を我慢しきれなくなって、更には挿れてくれと涼矢に懇願するんだろう。
今だってもう、噛みしめているはずの口の端から、甘い息が漏れはじめてしまっている。
涼矢は一本ずつ足指を舐り終えると、そこからゆっくりと口を外した。つま先から涼矢の口まで、唾液が糸を引いている。涼矢がぞんざいに自分の口元をぬぐっているのが視界に入った。
「足、開いて。」涼矢が言う。和樹は言われた通りに足を開いた。涼矢の肩幅程度に。「もっと」と言われて、少し角度を広げる。それでも涼矢は「もっと」と言い、和樹はためらいつつも、さらに大股開きをした。そこまではまだ良かったが、「自分で、その足、持って。」と言われると、さすがにひるんだ。「閉じないように、ちゃんと、自分で自分の足、抱えて。」涼矢は一語ずつ区切って、和樹に言い聞かせるように、言い直した。
和樹は弱々しくではあるが、「いや、だ。」と抵抗してみた。
「そう。じゃ、いいよ。」涼矢はあっけなくそれを受け容れた。和樹はまた拍子抜けの気分を味わったが、それは顔に出さないように努力した。
涼矢はローションを手にして、和樹の下腹とペニスにとろとろと注ぎ、片手でしごきはじめた。もう一方の手は、乳首を弄る。
「あっ……ああっ……。」ついに和樹の口からはっきりした喘ぎ声が上がる。涼矢はその声を聞くと、両方の手を離し「横、向いて。」と指示してきた。和樹は急に途切れた刺激と、意図のわからない指示に戸惑いながら、横向きの姿勢になった。涼矢は和樹の背中にぴったり寄り添うようにして、再びペニスをしごきはじめる。和樹は背後から伸びる涼矢の手で、自慰をしているような気分になった。だが、時折背中や首にキスをされ、それが自慰でないことを思い知らされる。「あっ、あっ、あっ。」リズミカルな刺激に、和樹は瞬く間に上り詰める。だが、またもそこで涼矢の手が止まる。
「握っててあげるから、自分で、腰、動かしなよ。」耳元で涼矢が囁いた。
「え。」
「イキたいだろ? こんなに硬くしちゃって。だから、好きに動いていいよ。」反射的に後ろを振り向こうとする和樹の口元を、和樹はもう一方の手で覆って押さえつけた。そんなことを言われても、こんなに密着された状態で、自慰と同然のことをするのにはやはり抵抗があった。前に涼矢の前で涼矢に言われて自慰行為を見せたことはあるが、その時とは何かが違う。口を覆われている和樹は、首をかすかに左右に振って拒否を示した。
「そっか。」またも涼矢はペニスを握っていた手と、口元を押さえていた手の双方をあっけなく外し、和樹の背に密着させていた体さえも少し離した。
「あ。」和樹が思わず声を出す。
「ん?」
「……なんでもない。」
涼矢は背後から、和樹のうなじや耳の裏に舌を這わせ、乳首を弄った。それはそれで気持ちがいい。しかし、ついさっきまでしごかれていたペニスはまだおさまっていない。
うなじにキスされたぐらいじゃ物足りない。もっと別のところを触って、攻めてほしい。もっと、強く。もっと。そのためなら、本当は、自分で開脚したっていいし、自らの腰を動かしたって構わない。構わないどころか、本当は、そうしたい。
でも、そう言えない。できない。だってそんな言葉を口にするのも、そんな行為をするのも、恥ずかしい。そういうことを自分から求めたら涼矢に主導権を握られるようで嫌だ。
今までの涼矢なら、そんな和樹の口先の抵抗やポーズだけの拒否など簡単に見抜いて、その「本当の」欲望をかなえてくれたはずだった。だが、今の涼矢は違っていた。
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