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第133話 光射す、その先の。⑤

 涼矢は和樹にキスをして、「ちゃんとイカせるからね。」と囁いた。そして、いきなりペニスを舐め始めた。半端なところで放置されてしまっていたそこは、待ちかねていたと言わんばかりに急速に硬くなった。「足、開いて。」涼矢がまたあの指示を出し、和樹は言われるままに開いた。だが、今回は自分の手でその足を抱えろと言われる心配はない。両手が使えないのだから。これが今の和樹のなけなしの「言い訳」だった。  涼矢は枕を和樹の腰の下に置き、腰の位置を少し高くした。そして開かれた両脚の間に顔を埋めてアナルを舐めた。手ではペニスをしごきながら。じらされた挙句の急な刺激に、和樹の体が激しく跳ね上がるように反応した。 「あっ、あっ、涼、そこっ……!」 「気持ち良さそ。」涼矢はペニスをしごくのを続けながら、アナルに指を挿入した。 「あっ、も……だめ、イッちゃう……まだ…やだ……。」 「まだイキたくない?」涼矢の問いかけに和樹はうなずいた。涼矢はしごくのをやめて、前立腺への刺激だけにした。「あ、でもイッちゃうかな。ここ、好きだもんね。」涼矢の指が、ピンポイントに攻めてくる。和樹の体がビクビクッと痙攣するように反応した。射精こそしていないが、絶頂感はある。いわゆるドライオーガズムの状況だったが、この時の和樹はそれがそういう名前の現象であるとは知らず、ただ今まで経験したことのない、連続してやってくる快感の波に何度も喘ぎ、体をよじらせた。 「涼、俺だけ、やだ……」ひとしきり喘いで、なんとか言葉が話せるまでになったが、まだ途切れ途切れにしかしゃべれない。「涼矢も……」  涼矢はそんな和樹の頬を撫でた。「いい?」 「ん、挿れて。」熱っぽく目を潤ませて、和樹が言う。「ちゃんと、中まで。」 「下、向ける?」涼矢がそう言うと、和樹は縛られたまま、肘を支点にして体を回転させ、うつ伏せになった。そして、涼矢に指示されるより先に、お尻を突き出すような姿勢をとった。涼矢はもう一度ローションを垂らし、自分と和樹の双方にコンドームを装着した。「挿れるよ。」涼矢は和樹の腰を持ち、ゆっくりと挿入していった。それに対応して、和樹がまた喘ぐ。 「ゆ…くり、して……じゃないと……すぐ……イッちゃ……」 「すぐイッていいよ。」 「やだ……涼矢と……一緒が…い……」 「俺もすぐ……イキそうだから……」涼矢の息もだいぶ荒く、その言葉に偽りのないことをあらわしていた。 「あっ、ああっ、い、涼っ、いいっ」和樹は涼矢が前後にゆするたびに、歓喜の声を上げた。 「気持ちいい?」 「気持ちいいっ、あ、やっ……もう、イク、涼、来て、一緒にっ」 「ん、イクよ。」涼矢が射精するのを感じた瞬間に、和樹もまた、射精した。頭が真っ白になる。  気がつくと、和樹を縛っていたタスキはほどかれており、仰向けに寝かされていた。腰の下にあったはずの枕も、和樹の頭の下にある。涼矢は和樹に背を向ける形でベッドに腰かけ、ペットボトルのミネラルウォーターを飲んでいた。 「あれ、俺?」  和樹の声に、涼矢が振り向いた。「今度はおまえが飛んだな。水、飲む?」涼矢はペットボトルを掲げてみせた。和樹はまだぼうっとしながら、コクリとうなずいた。涼矢はペットボトルを傾け、中の水を自分の口に含むと、口移しで和樹に飲ませた。 「俺、イッたの?」 「そうじゃなかったらショックだけど。」 「すげえ。」 「何がだよ。」 「イって失神とか、本当にあるんだな。AVで見たことしかない。」 「和樹でも経験してないことがあるんだな。」 「……おまえとヤッてることのほとんどは経験したことないよ。」  涼矢はフフンと笑った。 「口移しで水飲むのだって、今が初めてだ。」  涼矢はその言葉に対しては、ただ微笑むだけだった。再び和樹に背を向けて、水を飲んだ。しばらく黙って何かを考えていた。そして、また和樹のほうを向くと、手を握り、「ごめん。」と言った。 「何が。」 「なんか……無理させただろ。」 「してないよ。おまえ、これからは俺のセックスは相手を失神させるほどスゴイんだぜって、自慢できるぞ。」 「いや、そこじゃなくて、その前。」 「……あー。」 「困ってたみたいだった。」 「困ってたよ。」 「だから、ごめん。」 「おまえのせいじゃないよ。俺の問題だから。」 「俺も困ってた。自分がどうしたいのか、和樹にどうしてもらいたいのか、わかんなくなっちゃって。」  和樹は笑った。「同じようなこと考えてたんだな。」起き上がり、涼矢の背中に頬をくっつけるようにしてもたれた。「良かった。呆れられたかと思った。」 「呆れるなんてとんでもない。」 「おまえ、俺のことめちゃくちゃ好きだもんな。」 「うん。めちゃくちゃ好き。」  涼矢の背中の温かさを感じながら、和樹は「いつもの涼矢だ」と思った。    ……「いつもの涼矢」ってどんな奴だっけ?  さっき中断したその件をぼんやりと考える。

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