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第2話 宴のあと②
涼矢は話題を変えた。「俺も制服着て行こうかな。俺だけ私服なの、変だよね。」
「好きにしたらいい。」
「目立つのは好きじゃないんだ。」涼矢は床に落ちている制服を拾った。「あれ、このシャツ、俺のじゃない。」
「え。」和樹は既に袖を通したシャツを確かめる。「本当だ、これちょっとデカい。悪い、間違えたみたい。」慌てて脱ごうとする。
「あ、いいよ。替えのシャツ、着て行くから。」涼矢はクローゼットからシャツを出した。
「なんでサイズ違うんだ?」
「だから、俺のほうが背が高いし。」
「そこまで違わないだろ。」
「腕が普通より長いんだよ、俺。だから、袖丈に合わせると大きめになる。」涼矢は袖を通しながら腕を伸ばして見せた。
「ああ、そう言えば、リーチが長い気がしていたわ。」並んで腕を伸ばす和樹。確かに数センチ、涼矢のほうが長い腕をしていた。「これのせいで、なかなかおまえのタイムが抜けなかったのか。」
「最後は和樹のほうが速かった。選手決めの時。」
「あの時は絶対勝ちに行くって決めてたから。」
「俺だってそうだよ。最後の最後にやられた。」
「俺のこと好きなら、もっと楽に勝たせてくれりゃよかったのに。」
「いやなこった。」涼矢は和樹をまっすぐに見た。「和樹のほうから俺を追いかけてきてくれるなんて、プールの中だけだったからね。」
和樹は涼矢の腕をつかみ、軽くキスをした。「これからは陸の上でも、俺に追いかけてほしい?」
「先に好きになったほうが負けに決まってるし。」涼矢から、もう一度キス。
「俺、全然勝ってる気がしないけど。」
二人は、連れだって暗くなった町に出た。スマホの地図アプリで、みんなが集まっているというカラオケボックスを確かめる。もう二次会も済み、三次会に突入しているようだ。
店に着くと、こちらが尋ねるより先に、制服姿を見た店員がパーティールームを案内した。ドアを開けると、ワァッと歓声が上がった。
「二人ともおっせーよ。」と柳瀬が大声で言った。全部で三〇人ほどもいるだろうか。津々井や綾乃の姿も見える。
「何か歌えよ。」と宮野が言ったが、聞こえないふりをした。実際、隣のクラスの女子が熱唱中で、普通の声量では何も聞こえない状態だったし、曲の予約も限界の曲数まで入ってるようだ。
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