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第5話 宴のあと⑤

「シホ、どうなん?」「言っちゃえ言っちゃえ」渡辺志保と仲が良いらしい女子数名がはやしたてている。  青野がマイクを志保に渡した。志保はしばらくもじもじしていたが、やがて意を決したように顔を上げると、力強く言った。「私も、好きです。」  佐藤の告白の時以上のどよめきが起き、そしてそれは祝福の拍手と歓声となった。 「おめでとうございます。カップル誕生です。」青野はすっかり司会進行役の顔だ。「佐藤くん、今後のご予定は。」 「えっと、全然考えてなかったんですけど。大学は違うけど、二人とも地元なんで、今後ともよろしくお願いしますって感じです。」佐藤は恥ずかしそうに頭をかきながらそんなことを言った。周りは盛んに冷やかしたが、和樹は「地元」の単語を聞いて、また、心が痛んだ。  俺が東京の大学を選ばなければ、これからも涼矢の近くにいられたのに。でも、そのことはもう、何度も考えた。考えても仕方のないこととわかっていながら。今更上京をやめるなんて現実的じゃない。それに、俺が東京に行くからこそ涼矢は告白してくれたのだから。だから、これで良かったんだ。今まで何度も行ったり来たりして、最後はその結論にたどりつく。  自分に言い聞かせるようにそんなことを考えながら、和樹は誕生したばかりのカップルをまぶしく見た。 「それでは、せっかくこのような良い感じの流れになったので、この機会に、告白したい人、何かみんなに発表したい人は是非前に出てきてください。」青野がそう呼びかけた。しかし、名乗り出る勇気がある者はいなかった。「いないですか。じゃあ、佐藤くんに誰か次の人を指名してもらうというのはどうでしょうか。」青野は慌てるそぶりもなく、そつなくこなす。 「だったら、もちろん、F組の柳瀬です。」佐藤は満面の笑みで答えた。 「ええっ、なんで俺?」柳瀬は目を白黒させた。 「柳瀬くんは、最近、良いことがあったみたいなので。」と佐藤が言った。青野がその隙に柳瀬を呼びよせ、マイクを手渡す。 「なんだよ、別になんもねえよ。」「ヒナちゃんの件。」「うっせ、余計なこと言うんじゃねえよ。」柳瀬と佐藤の声がマイクに拾われる。それに気付いた柳瀬は、仕方なさそうにマイクに向かって話しだした。 「俺もやっと彼女ができました。学校は違うけど、中学の時の同級生の子です。それだけ。どうもです。」柳瀬は一礼した。ヒナちゃんという名前には覚えがあった。確か、それは「涼矢狙い」の子ではなかったか。柳瀬はいつの間にか自分の彼女にしたらしい。佐藤の時ほどではないものの、拍手が起きた。ただ、祝福よりも「なんで柳瀬に彼女ができて、俺にいないんだよ。」「あいつ浪人するくせに。」「だまされてるんじゃないの。」「脳内彼女だろ。」といった声のほうが多いようだ。 「柳瀬くん、良かったですね。」青野はあっさりそう言うと、「では、次の人を指名してください。」と促した。柳瀬は宮野を指名した。宮野は髪をふわふわさせながら、柳瀬と入れ替わりに前に出てきた。 「俺はご存知の通り、特に何もないっす。」 「告白じゃなくてもいいですよ。最近のニュースとか、四月からの予定とか。」青野が言う。 「ええと、車の免許取りました。女子限定で助手席いつでも空いています。」 「なるほど。女子の皆さん、宮野くんをよろしく。」 「それから、弟が生まれました。」 「はい?」 「母親が去年再婚して、父親違いの弟が先週生まれました。」 「それはなかなかのニュースですね。おめでとうございます。弟さんは可愛いですか。」 「めっちゃ可愛いです。マジで可愛いです。天使です。だから、誰か俺と赤ちゃん作りましょう。」 「あ、良い話だったのに、最後はやっぱりセクハラでしたね。」青野の言葉にみんなが笑った。 「じゃ、次は柴を指名します。」宮野が言った。

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