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第11話 Tea for two ④

 怖い。涼矢に指摘されて、和樹は自分の感情を知った。怖い。そうだ、俺は怖いんだ。男に挿入されるセックスなんてしたことない。痛みも不安だし、そんなことをされて、自分がどうなってしまうのかがわからないのも怖い。それから、この、暗い目で俺を射抜くような、今まで見たことのない涼矢が、怖い。  和樹は何も言えなかった。知らぬ間に小刻みに震えていた。涼矢は指を抜いて、和樹の両肩を両手で押さえつけ、「ついさっき、おまえが俺にしたことだろ?」と低い声で言った。見透かされている、と和樹は思った。「そんで、これからも俺にしようとしてたことだろ?」と涼矢がたたみかけた。 「でっ、でも、それとこれとは違うし。あ、ありえないだろっ。」 「おまえが挿れるのはよくて、俺が挿れるのはありえないの?」和樹は言い返せなかった。涼矢に指摘された、自分の言葉の理不尽さに自分でも呆れた。涼矢は和樹の両肩を押さえる指に力をこめた。「俺は、言ったはずだ。俺と付き合うってことがどういうことなのか、良く考えろって。」 「涼矢、でも、それは」言いかける和樹を、涼矢はさえぎる。 「おまえ、抱いていいって言ってたよな?」  言った覚えはあった。その時はそれでもいいと本当に思っていた。……いや、本当はそこまで考えていなかったのか? 「結局、そうなんだよな。」涼矢は和樹の脳内を読み取るかのように言った。「おまえにとって、男のケツなんか女のアソコの代わりで、俺の気持ちなんて考えちゃいない。そうだろ?」 「そんな、そんなんじゃない。」和樹は押さえつけられたまま、首を横に振った。 「俺は本当に和樹が好きだよ。でも、だからって、おまえにすがりついて、興味本位でいいから、女の代わりでいいから、セックスしてくださいなんて、お願いするつもりはないんだ。」涼矢は和樹の肩から手を離し、そして、身体を離した。 「涼矢、違う、待てよ。」 「待たない。」涼矢は和樹をまっすぐに見た。「それも言ったよね? 俺は、三年、おまえを見てた。いくら近くにいても、触れることもできなかった。それでも良かったんだ。ただ、最後に好きだって言わせてほしい、それだけだ、俺の望みなんて、たったそれだけのことだった。それだけだったのに、おまえがそれを引き留めて、優しくしてきて、でも結局そうなんだ。和樹は、俺のところに来ることなんてできない。」 「涼矢!」和樹は涼矢の腕をつかんだ。「俺の話も聞いてくれよ。」 「触るな。」涼矢は和樹を押し返す。「俺に犯される覚悟なんてないんだろ?」 「違うよ、そんなの、違うだろ。」 「何が違うんだよ。」 「おまえは俺を犯したりしない。」 「でも」 「抱きたいのと、犯したいって、全然違うし。お、俺は、その……さっきは、ごめん、涼矢の言う通り、怖かった。それは否定しない。でも」和樹は、再び涼矢の腕をつかもうとしたが、涼矢が身をよじってよけたため、つかめなかった。「それは、ただ、そういうの、経験なくて怖かっただけで、おまえが嫌だとかそういうことじゃない。興味本位でもない。上手く言えないけど、涼矢の言ってることは、全然違う。」 「もう、いい。終わりにしよう。終わりって言うか、はじめから何もなかった。それでいいだろ。」涼矢はベッドサイドに脚を下し、和樹に背中を向けた。

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