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第15話 Two for tea ④

 涼矢も和樹もしばらくそのままの姿勢でいた。肩で息をしながら、涼矢がそれを抜くと、和樹のそこからドロリとあふれ出てくるのがわかった。涼矢はティッシュでそれを拭い取った。丁寧に中のほうまでかきだしている。和樹はされるがままだ。 「早くてごめん……余裕なくて。」と涼矢が言った。少しばかりしょんぼりとしている様に、つい笑ってしまう和樹だった。 「俺のほうこそ、童貞にイカされる日が来るとは思ってなかったよ。」和樹は照れ隠しのため、わざとぶっきらぼうに言い放った。そして、涼矢みたいだ、と思う。焦るとフリーズし、恥ずかしい時は言葉が荒くなる涼矢。「おまえは、どうだったんだよ。初体験の感想。」無意識のうちに少しでも優位に立ちたくて、初体験を強調した。 「気持ち良かった。良すぎて、つい。」涼矢はあっさりそう言うと和樹の頬にキスをした。「次はもうちょっと長続きできるようにする。」耳にも、肩にも、キスをする。指先は和樹の肌を撫でる。「次があれば……だけど。」と付け加える涼矢に、和樹は苦笑する。 「まだそんなこと言ってるのかよ。いいかげん腹くくれよ。」 「……男らしいな、和樹は。」  ケツやられて男らしいと言われちゃ世話ねえな、と和樹は心の中でひとりごちたが、涼矢の言葉を聞き、優しい愛撫を受けているうちに、さっきまであった自分の戸惑いがどうでもよくなってきた。それは自暴自棄とは違って、頑なな気持ちが溶けていくような、そんな気分だった。 「涼矢。」今度は和樹から涼矢にキスをした。「好きだよ。」 「ん。」 「信じろよ?」 「……信じるよ。」涼矢が横を向く。その耳が赤く染まっている。何を今更照れているのだか、恥ずかしいのはこっちだ、と和樹は思った。自分が突きあげられていた時の、涼矢の熱を帯びた目を思い出す。あの時の俺は、一体、どんな顔をこいつに見せていたんだろう。ぼんやりと涼矢の横顔を眺めていると、視線に気づいた涼矢が和樹を見た。 「何だよ。」 「別に。」  今度は涼矢のほうが和樹をじっと見つめた。「何だよ。」と、さっきの涼矢のセリフを和樹が言う。 「夢かな、と。」 「え。」 「俺は夢を見ているのかなって。」 「何言ってんの。」  涼矢の手が、和樹のほうに伸びてくる。長い腕。長い指。それが和樹の頬に触れる。「さわれる。」 「当たり前だろ。」和樹は笑った。そして、涼矢が顔を撫で続けるのを止めもせず、好きなようにさせていた。  頬やこめかみを撫でながら、涼矢は「俺は、欲張りだなあ。」と呟いた。 「何を突然。」 「手を離すのが、惜しくなった。」 「は?」 「見ているだけでいいと思ってた癖にね。好きって伝えられたら、それだけでいいって思ってたのに。」涼矢は優しく和樹に口づけた。「触れるようになったら、もう、手を離すのが、嫌になって、こんなことしたら、余計。」  額同士をくっつけて、二人はしばらく無言でいた。 「涼矢が泣いてすがりついてくれたら、東京に行くのやめるよ。」と和樹が言った。 「ホントに?」 「うん。」  涼矢はいたずらっ子をたしなめるかのように、和樹の鼻をつまんだ。「おまえなんか、さっさとどこへでも行けよ。誰が泣いてすがるか、馬鹿。」

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