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第16話 Two for tea ⑤

「ひでえな。」和樹は涼矢の手を取り、その手首にキスをした。「強欲なのは俺も同じだよ。ああ、俺、なんで地元の大学にしなかったのかなあ。そしたら、涼矢とずっと一緒にいられたのになあ。」何度も繰り返した自問自答を初めて涼矢の前で口にした。 「地元に残っていたら、俺とこうなってないと思うけど。」  涼矢の返事が自分の考えと一致していたことが、少しだけ嬉しい。「そりゃそうか。じゃ、これで良かったんだ。」 「ポジティブだな。」 「おう。」和樹はにっこりと笑ってみせた。「距離的には離れても、会えない時間が二人の愛を大きく育てるよ、きっと。そんな歌、昔あったよな。」 「遠距離無理って言ってたくせに。」 「おまえがちゃんと俺のことつかまえててくれれば大丈夫だって言った。」 「そこが一番自信ねえよ。」 「心配するなよ。」和樹は涼矢にしがみつくようにして抱きついた。「おまえだけだよ。涼矢だけ。」 「あ、ちょっと。」 「何。」 「そういうことされるとさ。また、その……。」 「俺も同じだって。ほら。」和樹は自分の股間に涼矢の手を持って行く。「もう一回、しよ?」  涼矢の中に溶けて行くみたいだ、と和樹は思った。抱かれているのは、柔らかくもない引きしまった筋肉の塊なのに、おかしなことだ。この感覚を知っている気がする。温かいものに包まれて、ふわりと腰が浮く。どちらが上でどちらが下かわからない。あのオレンジ色の、光の中。  初めて知る感覚もある。自分の性感帯。うなじと乳首とわき腹と。涼矢の舌がそれらを這うと、ゾクリとした快感が全身を通り抜ける。気がつくと、涼矢の背中に指を食い込ませて、喘いでいる自分の声。いつの間にか、もっと強く抱いて欲しい、と念じている自分。  去年だっけ、一週間ヤリまくった彼女、ミサキ。彼女も、少しはそんな風に思っただろうか。思ってくれていたらいい。俺に処女を捧げたマユも思ってくれただろうか。それから、もちろん、あの美しい綾乃も。今の俺のように、好きな奴に抱かれて、溶けて行くみたいだって。もっと強く抱いて欲しいって。今の俺のように、ふわふわと気持ち良くて、でも中心はすごく熱くて、その熱が自分のものなのか、相手のものなのかわからないぐらいくっついて、自分に向けられている欲情した視線も、自分の愛撫に反応して相手があげる喘ぎ声も、そのすべてが泣きたくなるほど幸せで。そんな風に思える瞬間があったなら、いい。きっといっぱい傷つけてしまった彼女たちに、少しでも幸せな時間を与えられていたのなら。  でも、自分が過去に抱いた女たちより、涼矢に抱かれている今の自分のほうが幸せに違いない。

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