28 / 138
第28話 Lovers ⑤
和樹はベッドに仰向けに横たわる。涼矢が自分に注いだ精液が垂れてくるのがわかる。「何やってるんだ、俺。」と呟いた。女には事欠かなかった自分が、何故いま男とセックスして、挿入され、尻から精液を垂れ流しているのか。
涼矢のことは好きだ。あいつに愛の言葉を囁かれると幸せだと思うし、あいつの好意には報いてやりたいと思う。それに、何しろ奴とのセックスは気持ちがいい。さっき到達したエクスタシーは、正直女とのセックスでは味わえなかった。でも、だからこそ、混乱する。この快感を手放したくないという執着と愛情と取り違えているんじゃないか。ベンチで語られた涼矢の辛い過去に、必要以上に同情しているだけなのではないか。
今までつきあってきた女の子たちに対して、こんなことを悩んだ覚えはない。でも、それは紛う事なき愛情だという確信があったからではない。彼女たちとキスもセックスもしなくても、変わらず好きでいられたかと聞かれたら、答えに窮してしまう。ミサキに至ってははっきりと「体目当てだ」と罵倒され、そんなことはないと自信をもって反論できなかった。では愛情は少しもなかったのかと言ったら、そんなことはない。ただ、愛情の中にセックス要素も多いにあっただけだ。というか、そもそもそれは分けられるものなのか? 分ける必要があるのか? だったら今の涼矢と変わらない。あれを愛と呼んでいいなら、涼矢への気持ちも愛だろう。
涼矢が戻ってきた。「どうした? 変な顔して。」
「別に。」
涼矢は和樹の素っ気ない態度に気を悪くするでもなく、クローゼットから着替えを出し始めた。和樹の分も。「これでいいよな。パンツは新品。」
「おう、サンキュ。」和樹は寝そべったまま涼矢に聞く。「なあ、俺のこと、一年の時から好きって言ってたよな。」
「え? ああ、うん。」
「俺を見て、欲情してたわけだろ?」
「何が言いたい。」
「部活の時なんて、エロい目で見ている対象が、あの競泳パンツ一丁だろ。困らなかった? 勃起しちゃったりしなかったの?」
「しねえよ。」
「しないんだ。」
「おまえ、毎日授業中に川島さん見て勃ててたのかよ。」
「そう言われれば、それはないな。」
「そういうこと。」
「でも、ヤバイことはあったよ。汗かいてブラが透けてる時とか。」
「そのへんは大丈夫だ。」
「なんだよ、大丈夫って。」
「そういう時は心の中で般若心経を唱える。おかげで全文暗記した。」
「マジかよ。どんだけ読経してるんだよ。」
涼矢は横たわる和樹の脇に腰かけ、キスをした。「でも、坊さんにはなれそうにない。煩悩だらけ。」
「色欲是空……。」和樹は合掌してそんなことを言った。
「ちげえよ。」涼矢はチラリと時計を見た。「そろそろお湯たまってる。行こ。」和樹の手を引く。二人は手をつないだまま、階下の浴室に向かった。
ともだちにシェアしよう!