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第33話 愛しのきみ ②
ピザが届くまでの間に、涼矢は手際よくサラダを作った。ピザと一緒に注文すれば良かったじゃないかと言う和樹に、高い割に量が少ないから嫌だと言い、ドレッシングまで自作する涼矢に和樹は驚いた。「メシ食わないのに、料理はできるんだ。」
「料理は嫌いじゃないよ。でも、親がいる時にたまに作るぐらい。食わせる相手がいないと、あんまりね。」
「マジで嫁に来てほしいわ。」
「うん。行くよ。」涼矢は料理の手を止めずに、横目で和樹を見た。「おまえが本気なら、いつでも、すべて投げ打って行く。その代わり、ちゃんと養えよ。」
「涼矢のほうが高給取りになりそうだから、俺が嫁に行くわ。」
「嫌だよ、和樹、家事できなさそう。俺だって司法試験に合格できるかわかったもんじゃないし。」
「夢がないなあ。」和樹は涼矢の腰に背後から手をまわした。
「夢だよ。日本ではまだ同性婚は認められてない。」
「そこはさあ、おまえが弁護士になってバーンと法律変えちゃってよ。」
「弁護士に立法権はない。」
「可愛くないな。」と言いながら、和樹は涼矢の耳の裏にキスをした。
「くすぐったいから。邪魔。」涼矢は和樹を払う仕草をした。
「だってさ、新婚さんみたいじゃない?」
「裸エプロンでもしてやろうか?」
「それは要らねえ。」
「はい、できあがり。」涼矢のサラダは、パプリカやらオリーブやらまで載せられた、彩りのよい立派なものだった。
「すげえ、プロみたい。やっぱり、イラストをお描きになるだけあって美的感覚が優れていらっしゃいますね。」和樹は、事実、その仕上がりに感心した。
「はは。キレイなものは好きだよ。メンクイだしね。」涼矢は背後の和樹をチラッと見る。
「あー、俺のこと? おかげさまで、イケメンだねってよく言われるぅ。」和樹はふざけた口調でそんなことを言った。
「だって、顔だからね。」
「えっ?」
「和樹の顔、どストライクだったから。」涼矢は、腰に回っていた和樹の腕を外し、サラダをテーブルに運びながら話す。「一目惚れ。入学式の、あの時に。」
「あ。」入学式の日、五十音順に座った席。隣の涼矢に話しかけた、あの時。『何かスポーツやってる?』『水泳』、それだけの会話だったけれど、今思えばそれが2人の、言わば「なれそめ」の会話だった。「え、でも涼矢、俺のコミュ力に憧れてたって言ってなかった?」
「それもあるけど。」
「本当は、顔なんだ。」
「顔だよ。顔が6割、3割が体、コミュ力は残りの1割。」
「3割は体目当てかよ。やだ涼矢ったら。」
「俺、本当は高校では水泳じゃなくて、別のことするつもりだった。美術部とかさ。でも、和樹が水泳部に入るみたいだったから、俺も続けることにした。そしたら、非常に好みの身体のラインで……。」
「もうやめて。あなたの口からそんなこと聞きたくないわ。」和樹はわざと裏声でそんな風に言い、大袈裟に耳をふさぐ素振りをした。それからいつもの声に戻して言う。「それにしても、そんな初期段階からストーカー行為が始まっていたのか。」
「人をストーカーみたいに言うな。」
「みたいじゃなくて、ストーカーだよね? 健診カード盗み見るし。」
「はいはい、いいよもう、なんでも。」
「で、結局顔と体目当てか……なんかショックだなぁ。もっとさぁ、俺の人間性というかさぁ、内面をね。」
「そうなるよね。だから、今言ってみた。でも、だいたい最初はみんな、外見から興味を持つものじゃない? そこからだんだんと、内面に惹かれていくと言うか……。」涼矢は和樹の腕をつかんで、抱き寄せた。「今はもちろん内面も好き。全部好き。」
涼矢からの突然のハグ、そしてストレートな愛情表現に和樹はうろたえた。涼矢はバランスが悪い、と和樹は思う。無愛想だと思っていると、突然こんなことを言い出す。不器用で無骨な奴だと思っていると繊細な絵を描いたり、手際良く料理をしたりする。つかみどころがなくて、次の行動が全然読めない。振り回されるのは、いつも俺だ。先に好きになったほうが負け、涼矢はそんなことを言っていたが、それは嘘だと思う。
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