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第37話 愛しのきみ ⑥

 ドサッと勢いよくソファに座った涼矢は、その勢いのまま和樹に抱きついた。「難しいけど、気持ち良かった。」 「ああ、うん。」和樹のほうは、抱きつかれたことを嫌がる様子はないが、抱き返すこともしない。そんな、少しばかり素っ気ない和樹の返答が涼矢は気になるようだ。 「和樹はそうでもない?」 「いや、良かったよ。涼矢、エロエロ発動しまくりだったし。」 「なんか、ひっかかる言い方だな。」涼矢は流し目をするように和樹を見た。 「ホントに、エロエロだったって。」 「うん?」涼矢は小首をかしげて和樹を観察する。「俺がエロエロで変態でストーカーなのは今に始まったことじゃないだろ? 他に何か言いたいこと、あるんじゃない?」 「自己分析に長けているね、涼矢くん。」  涼矢は和樹に抱きつくのをやめた。  和樹は、きっと涼矢はこの後、「ちゃんと話せ」とか、「ごまかすな」といった言葉をぶつけてくるのだろう、と予想した。今までの元カノたちがそうだったからだ。言っても仕方のないことだから黙っているのに、どうしてそれがわからないのか。問い詰めたところでお互い不幸になるだけなのに。涼矢とまで、そんなやりとりはしたくないけれど、さて、どうしたものか。  だが、予想に反して、涼矢は何も言わなかった。ソファの上で膝を抱えて丸くなり、何やら物思いに耽っている。かといって、特別不安そうにしているのでもなければ、すねているようでもない。 「聞かないの?」沈黙に耐えられなくなったのは和樹のほうが先だった。 「何を?」あてこすりではなく、心から不思議そうに涼矢が聞き返した。 「俺の隠しごと。」 「やっぱ、隠してるんだ。」 「うん、まあ。」 「隠すってことは、言いたくないんだろ。だったら言わなくていいよ。」涼矢はサラリとそう言ってのけた。  和樹は頭をガツンと殴られた気がした。「気にならない?」 「うーん。気にならないこともないけど、無理やり言わせるもんでもないと思う。」  和樹は思わず涼矢に抱きついた。「涼矢。おまえ、すげえよ、ホント。」 「何だよ、いきなり。」 「大好きだよ。涼矢。愛してる。」涼矢の耳に囁いた。 「ん。ありがと。」真っ赤になって、はにかんで笑う。ほらまた、バランスの悪い涼矢、だ。ウブだったり、スケベだったり。どれが本当の涼矢なのか。きっと、全部ひっくるめて涼矢、なのだけれど。  和樹は小声で言った。「俺、どっちかっつうと、挿れられるほうが好きみたい。」  涼矢は驚いて和樹を見た。それから、ふふっと笑った。「それが、隠しごと?」 「そうだよ。俺のトップシークレットだ。おまえにしか言わない。」 「そっか。」涼矢はまた笑い、もう一度しみじみ、「そっかぁ。」と言った。 「どっちも気持ちいいのはいいんだけど。さっき、ちょっとね、そんな風に思った。また変わるかもしれないけど。なんていうか、その……」和樹は涼矢の顔をグイっと引き寄せ、その耳元でさっきより更に小声で言った。「涼矢に挿れられるのが最高に良い。」  涼矢はそんな和樹の頭を自分に押し付けるようにして抱いた。「可愛すぎる。俺、今この瞬間に死にたい。」 「死なねえって言ってただろ。」 「死なないけど死にたい。」 「俺はイキタイ。」  涼矢は和樹の顔を見る。「どっちの意味のイキタイ?」 「さあねえ……。」  2人は、顔を見合わせてくすくすと笑った。

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