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第38話「愛してる。」①
夕食の片づけは和樹がメインとなって済ませた。バスタオルも洗濯カゴに放り込んだ。戸締りも確認した。涼矢は当たり前のように二階の自分の部屋に向かい、和樹もそれに従う。
「リビング。風呂場。涼矢の部屋。」階段を上がりながら、和樹が呟いた。
「何だ?」
「おまえとエッチした場所。」
涼矢はフンと鼻を鳴らして笑った。
「俺がいない時に、おまえは思い出すわけだよ。ああ、ここで和樹とエッチしたなぁ、ここでもヤったなぁって。」
「あとは、和室と、親の寝室と、書斎があるな。親の寝室はパスするとして。和室も仏壇あるからなぁ。ご先祖様に見守られつつヤルのはキツイな。」
「書斎ってかっこいい。」
「うーん、元々は親父の仕事部屋なんだけど……今はいないから。」そう言いながら涼矢は自分の部屋の隣のドアを開けた。「こんなことになってる。」
開け放たれたドアの先には、ぎっしりと専門書の詰まった書棚と、立派な木製のデスクがあった。そこまではわかるが、問題は書棚の本の手前のわずかなスペースに並べられた、大量のプラモデルと、部屋の真ん中に鎮座する場違いなガラスケースだ。
「ガンプラ……と、何これ、ジオラマ?」
「中学の時、ハマってて。CG覚えてからはこっちは飽きちゃったけど。ああ、ジオラマは親父が作ったんだけどね。」
「これは……すげえとは思うけど、ここでヤル気は起きねえな。コイツらに見られてるみたい。」飾られているうちの、緑色のひとつを手に取る。「ザクとは違うのだよザクとは!」
「それはこっちだ。」涼矢は青いのを手に取る。「まあ、俺としても、親父がいる部屋ってイメージが強くて気は進まない。」
「……うん、やめとこう、ここは。」
「結局俺の部屋だな。」
「そうだな。」
2人は涼矢の部屋に入る。
「あー、落ち着く。もう、俺の部屋みたい。」和樹は早速ベッドに横たわり、思い切り伸びをする。「なんてね、俺の部屋、もっと汚いけどさ。」
「想像つくよ。」
「どうせ俺のこと、だらしない奴だと思ってるんだろう?」
「思ってる。」涼矢は和樹を少し押して、自分のスペースを空けるよう促し、隣に寝転がった。「脱いだら脱ぎっぱなしだし、遅刻も多かったし、女はとっかえひっかえだし、部活の基礎練よくサボってたし。」
「ひでえ言われようだな。仮にも恋人を。」
「……良い響きだな。」
「何が?」
「恋人。」涼矢は和樹に覆いかぶさるようにして、キスをした。「恋人だと、思っていいんだよね?」
「何を今更。」
涼矢は口をへの字に曲げ、唇を噛んだ。
「何だよ、その顔。」
「……泣きそう。」涼矢の目がじんわりと潤む。
和樹は涼矢の頭を撫でた。「愛してるよ。」
「だから、泣かすなよ、馬鹿。」涼矢の涙腺が決壊した。
「愛してる。」和樹は涼矢の涙を舌ですくい取るように、キスをした。何度も「愛してる。」を繰り返し、そのたびにキスをした。
「もういいよ、もう。」泣きやんでもまだ少し鼻声の残った声で、涼矢が言う。「あんまり言うなよ、それ。」
「なんで。」
「ありがたみがなくなる。」
「そんなことないよ。言えば言うほど、愛してるなーって気持ちが増える感じじゃない?」
「でも、だめ。」
「なんでだよ。」
「言われるのが当たり前になるのが嫌だ。俺がおまえに言うのはいいけど。」
「不公平。」和樹は首根っこをつかむように、涼矢の襟をつかんだ。「いいか、言われて当たり前なの。俺はおまえの恋人で、俺はおまえを愛してるんだから。もうそろそろ俺の恋人だっていう自覚を持ってくれ。」
「だから、もう、そういうことをさ……」また涼矢が泣きだした。
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