38 / 138

第38話「愛してる。」①

 夕食の片づけは和樹がメインとなって済ませた。バスタオルも洗濯カゴに放り込んだ。戸締りも確認した。涼矢は当たり前のように二階の自分の部屋に向かい、和樹もそれに従う。 「リビング。風呂場。涼矢の部屋。」階段を上がりながら、和樹が呟いた。 「何だ?」 「おまえとエッチした場所。」  涼矢はフンと鼻を鳴らして笑った。 「俺がいない時に、おまえは思い出すわけだよ。ああ、ここで和樹とエッチしたなぁ、ここでもヤったなぁって。」 「あとは、和室と、親の寝室と、書斎があるな。親の寝室はパスするとして。和室も仏壇あるからなぁ。ご先祖様に見守られつつヤルのはキツイな。」 「書斎ってかっこいい。」 「うーん、元々は親父の仕事部屋なんだけど……今はいないから。」そう言いながら涼矢は自分の部屋の隣のドアを開けた。「こんなことになってる。」  開け放たれたドアの先には、ぎっしりと専門書の詰まった書棚と、立派な木製のデスクがあった。そこまではわかるが、問題は書棚の本の手前のわずかなスペースに並べられた、大量のプラモデルと、部屋の真ん中に鎮座する場違いなガラスケースだ。 「ガンプラ……と、何これ、ジオラマ?」 「中学の時、ハマってて。CG覚えてからはこっちは飽きちゃったけど。ああ、ジオラマは親父が作ったんだけどね。」 「これは……すげえとは思うけど、ここでヤル気は起きねえな。コイツらに見られてるみたい。」飾られているうちの、緑色のひとつを手に取る。「ザクとは違うのだよザクとは!」 「それはこっちだ。」涼矢は青いのを手に取る。「まあ、俺としても、親父がいる部屋ってイメージが強くて気は進まない。」 「……うん、やめとこう、ここは。」 「結局俺の部屋だな。」 「そうだな。」 2人は涼矢の部屋に入る。 「あー、落ち着く。もう、俺の部屋みたい。」和樹は早速ベッドに横たわり、思い切り伸びをする。「なんてね、俺の部屋、もっと汚いけどさ。」 「想像つくよ。」 「どうせ俺のこと、だらしない奴だと思ってるんだろう?」 「思ってる。」涼矢は和樹を少し押して、自分のスペースを空けるよう促し、隣に寝転がった。「脱いだら脱ぎっぱなしだし、遅刻も多かったし、女はとっかえひっかえだし、部活の基礎練よくサボってたし。」 「ひでえ言われようだな。仮にも恋人を。」 「……良い響きだな。」 「何が?」 「恋人。」涼矢は和樹に覆いかぶさるようにして、キスをした。「恋人だと、思っていいんだよね?」 「何を今更。」  涼矢は口をへの字に曲げ、唇を噛んだ。 「何だよ、その顔。」 「……泣きそう。」涼矢の目がじんわりと潤む。  和樹は涼矢の頭を撫でた。「愛してるよ。」 「だから、泣かすなよ、馬鹿。」涼矢の涙腺が決壊した。 「愛してる。」和樹は涼矢の涙を舌ですくい取るように、キスをした。何度も「愛してる。」を繰り返し、そのたびにキスをした。 「もういいよ、もう。」泣きやんでもまだ少し鼻声の残った声で、涼矢が言う。「あんまり言うなよ、それ。」 「なんで。」 「ありがたみがなくなる。」 「そんなことないよ。言えば言うほど、愛してるなーって気持ちが増える感じじゃない?」 「でも、だめ。」 「なんでだよ。」 「言われるのが当たり前になるのが嫌だ。俺がおまえに言うのはいいけど。」 「不公平。」和樹は首根っこをつかむように、涼矢の襟をつかんだ。「いいか、言われて当たり前なの。俺はおまえの恋人で、俺はおまえを愛してるんだから。もうそろそろ俺の恋人だっていう自覚を持ってくれ。」 「だから、もう、そういうことをさ……」また涼矢が泣きだした。

ともだちにシェアしよう!