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第39話「愛してる。」②

「涼矢くんは案外泣き虫だねえ。」和樹は涼矢の頭をぐりぐりと撫でた。 「おまえが泣かせてるんだろ。」 「……涼矢に、こんなにいろんな表情があるの、知らなかった。ずっと近くで見てたはずなのにな。」 「怖かったから。」 「俺が?」 「おまえに特別な気持ちを持ってるってバレるのが。だから、あんまり顔に出ないように、いつも抑えてた。」 「そっか。」涼矢の顔を包み込むように両頬に手を当てて、和樹はキスをした。「もう怖がる必要ないし。」 「……うん。」 「思い切り、好きなだけ俺への愛を表現していいんだよ?」 「うん。」涼矢のほうからも和樹に口づける。「大好き。」もう一度。「愛してる。」 「涼矢。」和樹は涼矢のTシャツの中に手を滑り込ませた。「今日は寝かせてもらえないんだよな?」 「はは」涼矢は涙目のまま、笑った。「ああ、寝かせないよ。」  和樹は涼矢を強く抱きしめた。  これで何度目のセックスだろうと和樹はぼんやり考えた。涼矢と何度も繰り返しキスをし、涼矢の愛撫を享受して、自分の性感帯がペニス以外にあることを知った。乳首や、耳や、うなじや、脇腹や、くるぶしでさえ、触れられると感じるようになった。  涼矢は和樹の身体の隅々に舌を這わせていた。それに反応して喘ぎ声を上げるのは、無意識の時と意識的な時がある。意識的な時は、涼矢に自分の歓びを伝えたい時だ。こんなに涼矢が好きだよ、涼矢に愛されて幸せだよ、と伝えるため。大きく喘ぐと、涼矢はしばらく重点的に責めてくるから、責めてほしい場所を知らせるためでもある。黙って快感に浸っていたいこともないではないが、それだと涼矢が不安そうな顔をして、触れる指や舌がためらいがちになる。強い刺激が欲しい時は、だから少し大袈裟に声を出したりすることもある。そういった「ちょっとした作戦」を、どこまで涼矢が見抜いているかは分からない。涼矢のほうだって、責めてほしいと気がついている癖に、たまにわざと焦らしたり、周辺しか触れずに反応をうかがっているような時がある。だからお互い様だ、と和樹は思う。 「俺ばっかり。」全身への、長く丁寧な愛撫が続いて、和樹はふとそんな言葉を漏らす。じりじりと弱火で焦がされるようなじれったさ。体温だけが上がって行くが、決定的なところには触れないままでイクにイケない。そんな生殺しのような状態に、さすがに少し、疲れてきた。  だが、献身的な愛撫をする涼矢に疲れたとも言えず、代わりに「疲れただろ?」と疑問形を使った。 「疲れてはいないけど。」和樹の太ももの内側を舐めていた涼矢が、ハイハイするようにして上半身へと移動した。「じれったい?」 「うん。」 「素直でよろしい。」涼矢はニヤリと笑う。さっきは泣きべそかいていたくせに偉そうに、と和樹は心の中で毒づいた。だが、そう思った瞬間に、涼矢の指が和樹の敏感な粘膜に触れる。 「んっ。」和樹は身をのけぞらせた。 「まだ、第一関節なのに。」涼矢が耳元で囁く。

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