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第41話 A mother's son ①

 翌朝……と言っても、既に陽は高かったが、和樹は目を覚ましてすぐ、激しい腰の痛みを感じた。そりゃ、あれだけやりゃ腰も痛くなるよな、と昨夜のことを思い出す。隣の涼矢はまだ眠っている。それを起こさないように気をつけて、ベッドから降りた。辛うじてパンツは履いていることを確かめて、そのまま階下に一人で降りて行った。喉が渇いていたのでキッチンに行き、コップを手にした時、部屋の戸が開く気配がした。涼矢が来たのだと思い、その方向を見ずに和樹は言った。「麦茶もらっていい? 冷蔵庫開けるよ。」 「どうぞ。」背後からした声に、和樹は固まった。女性の声だったからだ。一瞬のうちに状況を理解した和樹は、おそるおそる振り向いた。そこには、もちろん、涼矢の母親、佐江子がいた。 「あ、えと、すみません、勝手に麦、いや、泊まって、その……。」  佐江子は昨日玄関で会った時と同じく、スキャンするように和樹を見た。「別に構わないわ。こちらこそごめんなさい、驚かせて。思ったより早く仕事が片付いたものだから。まあ、でも、またすぐ仕事に戻らないといけないから、お構いできないけど。」  その時、和樹は自分がパンツ一丁であることを思い出した。「うわっ、すみません、こんな恰好で。」 「私も一応息子がいる母親よ。そんなの、気にならない。」佐江子は快活に笑った。「涼矢はまだ寝てる?」 「は、はい……。」 「まったく、もうすぐお昼なのにね。」佐江子はバッグを椅子に置くと、部屋を出た。涼矢の部屋に行くつもりだろう。和樹はどうしていいか皆目見当がつかず、そっとその後についていった。佐江子は涼矢の部屋のドアをノックした。「涼。まだ寝てるの。都倉くんはもう起きてるわよ。」  部屋の中で、何やら物音がした。そう、たとえるなら、慌てて飛び起きて、服を着替え、何かの証拠隠滅を計るような、そんな音が。間違いなく、佐江子もその違和感には気がついたはずだ。それでも、無遠慮にドアを開けたりはしなかった。ドアは内側から開いた。涼矢は髪こそ乱れていたが、慌てて着たであろう服を着ていた。 「……早いね。」不機嫌そうに涼矢が言う。 「一時帰宅よ。」佐江子は、今度は断りなく部屋の内へと入っていった。「すぐ職場に戻るつもりだったんだけどね。」 「何だよ。」涼矢はあからさまに佐江子を拒絶する声を出したが、そんなことには構わず、次に佐江子は躊躇なくゴミ箱をのぞきこんだ。「何してるんだよ、やめろよ。」涼矢の声には、若干の焦りが含まれていた。この隙に和樹は自分の服をなんとか奪還し、廊下でこそこそと着た。その姿は浮気現場から逃げる間男のようだった。

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