42 / 138

第42話 A mother's son ②

 佐江子は、涼矢と、そしてドアの脇に立ち尽くす和樹を見比べた。 「単刀直入に聞くわ。二人は、友人ではなく、恋人?」  和樹は涼矢をとっさに見た。涼矢は佐江子を正面から見据えて、「ああ。」と一言言った。  佐江子は和樹のほうに向きなおり、「あなたの認識も同じで良いのね?」と尋ねた。 「……はい。」 「そう。」佐江子は一瞬顔を曇らせ、うつむいたが、すぐに顔を上げた。「個人のセクシャリティーについては、私にとやかく言う権利はないわ。ただ、コンドームはつけなさい。妊娠の心配はなくても、病気の問題があるから。まあ、使っているみたいだからいいけど。」 「それが母親の言うことかよ。」と涼矢は小さな声で言った。 「何よ、私の息子がゲイなんて信じられないって泣き喚いて欲しかったの?」佐江子は勝ち誇ったかのように言った。 「そうじゃないけど、ただ……。」涼矢はその先を言うのをためらっていた。 「(わたる)くんのこと? それを言うなら、彼のおかげで私はこんなことを言えるようになったのよ。私はあの時、渉くんを救えなかった。そしてきっと、あなたのことも傷つけたのよね? それは今でも後悔している。だからあれからいろいろ勉強して……あなたがどういう恋愛をしようと、受け容れられる。」  話の内容から、「渉」というのは、涼矢の言っていた自死してしまった初恋の人だと察せられた。 「涼矢、それに都倉くんも。あなたたちはあなたたちらしく生きる権利があって、家族でもそれは阻害してはならないものなの。そして、その権利を守ることは私の仕事だから。」佐江子はそこで腕時計を見た。「やだ、こんな時間。さて、お二方、何か私に言いたいことはある?」  涼矢は大きなため息をついた。「ねえよ。」 「それなら私は着替えたらもう行くわね。都倉くん、ランチぐらいご一緒したかったけど、残念。涼矢にお金は渡しておくから。」 「そんなの、いいです、昨日もピザごちそうになってて。」 「我が家はいつもこうなの。私もお金で解決したいわけじゃないんだけど、今更ふつうの母親面もできなくてね。」佐江子は涼矢のほうを見た。「でも、私もお父さんも、あなたを愛してるのよ、涼矢。」 「知ってるよ。」涼矢は無表情なまま答えた。 「それから、相手があなたで良かった。私、他人の家の冷蔵庫を勝手に開けるような躾のなってない子と不細工は苦手なの。」佐江子は和樹の頬に軽く触れた。「涼矢の好みはなかなかイケてる。私に似たのね。」 「セクハラで訴えるぞ。」涼矢が言った。 「セクハラは親告罪よ。都倉くんが訴えてちょうだい。」佐江子はそう言って笑うと、階下へと消えて行った。

ともだちにシェアしよう!