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第43話 A mother's son ③
「ごめん。」佐江子の気配がなくなったところで、涼矢が和樹に頭を下げた。
「いや……別に……。気にするな……って言うのも変か。」
「けど、ごめんしか言葉が浮かばない。」そう言いながら、とつぜん和樹のシャツを胸までめくりあげた。「おまえ、おふくろに出くわした時、パンイチだったんだよな?」
和樹の上半身には無数のキスマーク。和樹もそのことに気がついた。「ごめん。」
「いや、俺だろ。」涼矢はシャツを戻して、うなだれる。
「予想外のことばっかだったし、誰が悪いってことでもないんじゃ……ていうか、でも、これで親公認? 雨降って地固まる的な?」
「固まってるか、これ?」
「うーん…。でも、とりあえず俺、ああいう人は嫌いじゃないよ。」
「自分の母親じゃないから、そんなこと言えるんだ。」
二人で小声でそんなことを話していると、玄関のほうから佐江子の声が響いてきた。「それじゃ、私は行くわ。都倉くん、気をつけて東京行ってね。私は今日も遅くなるけど、今日はちゃんとおうちに帰るのよ。家族と一緒に暮らせるのもあと少しなんでしょ。」
「余計なこと言うなって。」二階から、珍しく大声で怒鳴る涼矢。
「はいはい。」靴を履く音が聞こえた。
和樹だけが慌てて階段を下り、玄関まで見送りに出た。「あの。」
「何?」
「すみませんでした。それと、ありがとうございます。」
「何を謝られて、何を感謝されてるのかわからないけど、気持ちは受け取っておく。それから、ついでに親馬鹿発言もさせて。涼矢を傷つけないでね。」
「はい。それはもう。」
佐江子はにっこり微笑み、「あなた自身のことも、大事にしてね。自分を大事にできないうちは、他人を大事になんかできないんだから。」と言い残し、出て行った。
和樹はしばらくその場に立ち尽くしていた。
ドアが閉まるのを見計らったように涼矢も下りてきて、和樹の背後を通ってリビングに行った。和樹もそれに続いた。涼矢はソファに崩れ落ちるように横たわり、和樹はそのソファを背もたれにして床に座った。
「残量ゼロって感じだな。」と和樹が声をかける。
「ああ。」
「でも俺、ちょっと安心した。」
「なんで。」
「涼矢が、ああいう感じで感情を露わにするの、初めて見たから。」和樹は、佐江子を睨みつけたり、大声で怒鳴ったりする涼矢を思い出していた。「おまえ、学校でも、いつも淡々としてて、ムキになるようなことなかったし……まぁ、それは、俺のこともあったせいかもしれないけど……なんて言えば良いのかな、お母さんの前のおまえ、こどもみたいっていうか。そりゃお母さんのこどもなんだけど、ガキっぽい? 幼稚って意味じゃないよ、そうじゃなくて、素直に感情が出せるんだなぁって思って。誰でもいいから、そうやって感情をぶつけられる人がいるって、良いことだと思うし、涼矢にそういう人がいて、しかもそれが、あのお母さんで良かったなって思った。」
「和樹にもいる? そういう人。」
「うーん、そうだなぁ。俺は元々友達にも遠慮とかしてないけど、一番と言ったら、兄貴かな。」
「仲良いんだな。」
「コンドームくれたのも兄貴だ。」
「……お互い理解ある家族がいて幸せだと言うべきなんだろうな。」
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