29 / 276
第29話
ある時、いつものように河原で並んで話をしていて、征治は「陽向はどう思う?」と意見を聞いた。
しかし、陽向は答えない。不思議に思って隣を向くと、呆けたような顔をしてこちらを見ている。
「陽向?」
もう一度声を掛けると、はっと我に返ったようで、「ごめんね、聞いてなかった」と言う。その顔は真っ赤だ。
「陽向、もしかして具合悪い?熱でもある?」
と、おでこに触れようとするとさらに真っ赤になって慌て始める。
「だ、大丈夫。ちょっと、考え事してただけ」
「本当?今日は風も冷たいし、もう帰ろうか」
征治が腰を上げかけると、慌てて腕を引っ張る。
「ほ、ほんとに大丈夫。あの、えっと、征治さんがかっこいいなって・・・ちょっと見とれてただけだから・・・」
俯きながらの最後の方は消え入るような声だったが、今度は征治が真っ赤になった。
今、かっこいいって言った?それに、さっきからの態度・・・少しは俺の事意識してくれてる?
「陽向?」
名前を呼ぶと陽向はこちらを見上げてきた。このところ、征治はぐんぐん背が伸び、陽向との身長差はますます開いている。
お互い何も言わずしばらく見つめ合った。陽向の大きな瞳の中に以前は感じなかった色のようなものがある気がして目をそらすことができない。
無意識のうちに征治の右手がゆっくりと伸び、陽向の頬にそっと触れた。
触れてから初めて自分のしたことに気が付き、慌てて「陽向は相変わらずかわいいよ」と取り繕ったが、相変わらずなどと言って、前からずっとかわいいと思っていたことまでバレてしまい、自分が相当テンパっていることに気付く。
しかし、陽向は陽向で、頬を触られた瞬間から耳まで真っ赤になって、視線がきょろきょろと落ち着かなくなっていた。
その夜、征治は昼間の陽向の顔を思い出し、胸を高鳴らせていた。
もしかすると、陽向は恋愛対象として俺を見てくれるのではないか?そう期待してしまう。
俺の事を好きになってほしい。
今日のように潤んだ瞳で俺の事を見てほしい。
ああ、もっとあの柔らかい頬に触れたい。
陽向の頬に触れた感触を右手に思い出す。すべすべしていて、弾力があって・・・そしていけないと思いつつ、その手で自分の中心を握る。すでに固く立ち上がっているそれは、陽向の頬に触れた手だと思うだけでビクンと反応した。
ああ、かわいい陽向、好きだ、好きだ・・・
好きだという言葉を頭の中に浮かべただけであっという間に昇りつめてしまった。しかし、興奮状態はなかなかおさまらず、その夜は3度も達 ってしまった。
征治は次の週末を焦れながら待った。夕方、顔を合わせる陽向はあの日以来、少しはにかんでいるように征治には見えた。早く二人きりになって、あのどきどきする感触を確かめたかった。
そしてやっと週末がやってきた。最初は征治が小太郎のリードを持った。小太郎が元気よくぐいぐいと征治を引っ張っていく。
「今日は小太郎、随分元気だな。走ってやろうか?」
そう陽向に言うと、うんと頷く。
それから二人と一匹は河原まで走った。
結構なスピードで走ってきたので、河原の土手でハアハア言いながら並んで寝転がる。
「陽向、大丈夫?」
「うん、でも小太郎も征治さんも早いから、ついて行くの必死だった~」
そう言って陽向はぱたんと両手を草の上に広げた。その手がちょうど征治の手にあたり、どきりとする。
陽向は慌てて手を少しひっこめた。
横を向いて陽向の表情を窺う。その横顔は少し赤いような気がするが走ってきたせいもあるかもしれない。
征治は自分の手を少し陽向の方へ動かし、小指どうしを触れ合わせた。陽向がピクリと反応する。でも自分から離したりはしない。
征治は自分の小指を陽向の小さな小指にそっと絡ませた。
陽向が息を飲むのが分かった。そして、ゆっくりとこちらへ顔を向ける。その顔に浮かんでいるのは戸惑いだけではないと思った。両頬をピンクに染めてじっと征治を見つめてくる。ああ、よかった。きっと俺の勘違いじゃない。
「ここで少し休憩しよう」
「うん」
答える陽向は絡めた指をほどかなかった。
寝転がる二人と一匹の上を風がそよそよと撫でていった。
ともだちにシェアしよう!