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第32話

夕食前に部屋で課題をしていると、田川が照れくさそうに頭を掻きながら相談があるんだけど、と声を掛けてきた。 「なあ、悪いんだけど、これから風呂の時間を前半と後半のシフト制にしない?」 どういうことだろう?首をかしげていると 「あー、だからさ、風呂の時間が90分あるだろ?それを片方が前半に入ってもう片方が後半に入るようにするわけ。そうすると、45分ずつ部屋で一人になる時間ができるだろ?」 そこまで聞いて、征治はピンときた。 「ああ、なるほど!」 「いやさ、俺、去年1年一人で自由にこの部屋使ってたもんだからさ、いつでも好きな時にできたんだよね。二人部屋の不自由さを思い出しちゃったというか・・・」 「ああ、わかるよ」 「寮室って内側から鍵掛けられないじゃん。だから、風呂に行くやつが外から鍵をかけて出て行けば、誰にも邪魔されないで安心してできるわけ」 「それはいいアイデアだね。いいよ、そうしよう」 「って、やっぱり王子も抜いたりするんだな!よかったー、白い目で見られなくて。賛同してくれたお礼に、いいものやる」 田川はごそごそとベッドの下から段ボール箱を取り出し、中から1冊本を取り出した。 「卒寮する先輩たちがズリネタを後輩に譲っていくのが慣例なんだけど、これもそのうちの1冊。俺はこういうスレンダー系より、ぽっちゃり系が好みだから、お前にやるよ」 表紙にはかろうじて局部だけが隠れている全裸の女が悩まし気なポーズをとっている写真。 「これがいわゆるエロ本というやつか」 「おまえ、ほんとに王子なのな!初めてのエロ本に鼻血出してひっくり返んなよ!じゃあ今晩からよろしく」 先に風呂に行った征治が約束の時間通りに戻ると、部屋の窓は開け放たれ、田川はすっきりとした顔をしていた。なるほど、こういう配慮も必要なんだな。 「それじゃ、お前も楽しめよ」 そう言って、田川は部屋の鍵を閉め風呂へ向かった。 窓を閉め、征治はベッドの上で先程の本を広げてみる。 初めてまともに見る女性の裸身。緩やかなカーブをもつ体のライン。柔らかそうな膨らんだ胸。丸い尻。美しいと思った。 触ったらどんな感じなんだろう。この胸や尻はやはり柔らかいのだろうか。そう思ったとたん、ゆるく反応を始めていた征治の中心がぐぐぐっとかさを増した。 征治ははっとした。俺は男が好きなわけじゃないんだ。女性でも反応するんだ。ドキドキしながらページをめくる。 そこには明らかに男のものとわかるごつい手が女性の乳房をわし掴みにしている写真。頭がちかちかして、股間が一気に張りつめた。 征治は慌てて本を閉じ、ベッドの下に投げ入れた。ダメだ!こんなもので()ったら。こんなの陽向に対する裏切りだ。征治は気を鎮めようとゆっくりと繰り返し息を吐く。 もしかしたら、俺が陽向の妄想で毎回抜いていると知ったら、陽向は気持ち悪がるかもしれない。でも、陽向以外で()くのはやはり浮気の様な気がするのだ。 俺のかわいい小さな恋人。俺の可愛い陽向。俺はちゃんとお前がもう少し大人になるまで待つよ。そしてお前がいいと言ってくれたら、お前に触れたい。お前も俺に触れてくれたら・・・もしお前の手が俺のこの熱いものに触れてくれたら・・・ 陽向がおずおずと手を伸ばし征治の昂ぶりを握る様子を想像したとたん、一気に熱が集まった。ああ、陽向っ、陽向!最後はいつものように心の中で陽向の名前を呼びながら絶頂を迎えた。 そして、陽向を裏切らずに済んだとほっとしたのだった。

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