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第37話
「確かに気持ちいいね、ここ。なんか森林浴してるみたいだ」
「うん、すごく木の匂いがするでしょ?前ね、一度だけリスを見たことがあるんだよ?すごくかわいかったんだよ」
「へえ、見てみたいな」
陽向がとことこ木々の中に入っていくのでついて行った。
「このね、すごく大きな木のあの枝からこっちをじっと見下ろしてたんだよ。こんなに小さくて、真っ黒な大きな目をしてて、とってもかわいくて・・・」
「陽向みたいだね」
「え?」
まさに大きな真っ黒な目で見上げられて、少し首を傾げる様子が小動物のようにかわいすぎて、理性の糸が切れそうになる。
ああマズい。おまけに神社はひっそりとしていて周りに人の気配がないのだ。
征治は片手の手のひらで自分の両目を覆い、強制的に陽向の視線を遮った。
「征治さん?」
陽向が心配そうな声を出す。
「なんでもないよ。・・・そろそろ行こうか」
征治はぎこちなく頭を振って笑った。
「・・・うん。・・・ねえ、征治さん。・・・もうすぐ夏休み終わっちゃうね。リス見せてあげられないかも・・・それにまた寂しくなっちゃう」
ああ、なんで今そんなこと言うんだ。こんなに必死に我慢してたのに。
征治は両腕で陽向を抱きしめた。最初少し固まっていた陽向の体が緩み、征治の胸に頬をぺたりとくっつけてきた。
「征治さん、寮に居るときは周りはお友達だらけできっと楽しいでしょ?僕の事、たまには思い出すこと、ある?・・・僕は、いつも土曜日が待ち遠しくて待ち遠しくて・・・でも日曜日の夜はまた会えない1週間が来ると思うと寂しくて・・・」
征治は陽向の体を引きはがし、両手で細い腕を掴んで陽向の顔を覗き込んだ。
「俺だって毎日陽向の事ばかり考えてるよ。土曜も日曜も陽向と同じ気持ちだよ」
「ほんとう?」
潤んだ目で見上げられたらもう駄目だった。
我慢できずに陽向の小さな唇を自分の唇で塞ぐ。
陽向の体がビクッと震えたのさえ、興奮する材料になってしまい、もう一度その唇を吸った。
もっと、この唇をこじ開けて陽向をむさぼりたいという衝動が沸きあがって来るが、必死でそれは押しとどめた。
代わりに陽向の頬やこめかみに啄む様なキスを散らせ、沸き起こる熱を逃がす。
ようやく激情の嵐が通り過ぎ、陽向を胸に抱き頭を撫でながら征治は言った。
「陽向、ごめん。こんなことして」
陽向は黙って首を横に振る。
「陽向、早く大人になって。それまで、もうこんなことしない」
そう耳元で囁くと、陽向がきゅううと抱きついてきた。
ああ、愛しい。可愛い可愛い俺の陽向。
征治は宝物を抱くようにそっと陽向の体を包んだ。
その夜は当然のように陽向とのキスを思い出し、征治のものは猛りまくった。
自制が効かなかった自分に対する情けなさはあるが、長年夢見てきた想い人との初めてのキスは激しい興奮と充足感をもたらした。
思いのほか柔らかかった陽向の唇、そしてとろんとした表情を思い出す度、体の中に新たな熱い火が灯るのだった。
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