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第40話

「ところで陽向。今日は俺の方を見てちゃんと話してくれるんだね。最近、陽向になんだか避けられているような気がして、俺、辛かったんだよ?」 急に陽向の表情が曇る。 「陽向、何か悩んでることがあるの?俺には話せないこと?俺は大切な恋人が困っているなら助けてあげたいよ?」 陽向が泣きそうな顔で見上げてくる。 「征治さん・・・僕・・・」 その時、チリンチリンと自転車のベルの音がして、 「陽向くーん!」 という複数の女の子の声が土手沿いの道から降ってきた。 振り返ると、自転車を押した中学生ぐらいの女の子が3人、手を振っている。陽向が手を振り返すと、三人は自転車を道に停めて、土手をこちらに降りてきた。 「この子、もしかして小太郎君?」 「そうだよ」 「真っ白でかわいいー、触っても大丈夫?」 一人がちらりと征治の方を見た。 「征治さん、みんな同じ中学の友達。こちらは征治さん。勝君のお兄さんだよ」 陽向が両者を紹介すると、女の子たちはぎょっとした顔をした。 「こんにちは。勝がみんなに迷惑かけたりしてないかな。あいつ、ちょっとやんちゃだろ?」 「似てない・・・」 一人が呟くと、今度は別の子が言った。 「いえ、慶田盛君は私たちなんか相手にしないというか、完全無視というか、見えていないというか・・・」 「ちょっと、みかちゃん、何言ってんのよ」 もう一人が慌てて止めようとする。 「だいたい分かったよ」 征治がくすくす笑いながら言うと、三人は一様にほっとしたようにえへへと笑って頭を掻いた。 しばらく、陽向とぺちゃくちゃお喋りをし、小太郎に構っていた3人はやがて、「陽向君、ばいばーい!」と何度も手を振り、帰っていった。 「賑やかだったね。陽向は学校で人気者なんだ?」 「ち、違うよ、そんなんじゃないよ。僕、今でも学年で一番背が低くて、女の子達からは男子だと思ってもらってないというか・・・」 「仕方ないよね、こんなにかわいいんだから」 横から顔を覗き込むようにして言うと、陽向は真っ赤になり両手で顔を隠した。その様子がかわいくて面白くて 「小太郎、陽向はすごくかわいいよね?」 と言うと、利口な小太郎は「ワン」と返事をして、征治を笑わせた。 しかし、この日が最後だったのだ。征治が陽向と屈託なく話して笑って、かわいい恋人をすぐそばに感じていられたのは。 ずっと後になって、あの時、陽向が苦し気な表情で何か言いかけていたことをちゃんと聞いていれば、違った結果になっていたのではないかと、征治は何度も後悔することになるのだった。

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