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第45話

「娘の美和の通っている幼稚園でね、いつも美和を追いかけまわして、髪をはさみで切ったり意地悪ばかり言う男の子がいてね、美和はその子が大の苦手だったの。 でもね、少し前に幼稚園のお友達親子で公園にピクニックに行ったときに、美和の泣き声が聞こえてきて、大人たちが駆けつけたの。そうしたら、遊具の取りあいか何かでトラブルになった知らない男の子4人に、その子が美和をかばいながら一人で立ち向かっててね。 その子にありがとうっていったら、その子のお母さんが『大輔は美和ちゃんが大好きなんだもんね』って。家でいつも美和ちゃんの話ばかりしてるって。 その後、ふと思ったの。もしかしたら勝君は陽向君の事がとても大切だったんじゃないかしら? 二人の間柄は単に従わせる者と従う者だったんじゃなくて、もっと傍目にはわからない絆のようなものがあったんじゃないかしらって。もしかしたら私がそう思いたかっただけかもしれないけれど、そう思ったら、あの日の勝君の行動にも納得がいったの」 「あの日って、小太郎が死んだ日?」 千香子は首を横に振る。 「いいえ。あれは・・・繁子ちゃんたちが高校を卒業する少し前。陽向君、いなくなってしまったでしょう?」 そうなのだ。ある日、忽然と陽向は姿を消してしまった。 それを征治は3度目のそして最大の裏切りだと感じていたのだ。 「私、その日、学校の帰りに勝君に会ったの。普段お話することなんてなかったのに、すごい勢いで、『お前、陽向を見なかったか』って。それはもう、なんていうか血相を変えてと言う感じで、汗をびっしょりかいていてただ事ではないって感じだったわ。見ていないと答えると自転車で凄い勢いで走っていっちゃったの。 翌日、お華の先生の所へ行く途中でまた勝君を見掛けたの。駐在さんに、どこかで事故とかなかったか、海で溺れた人はいなかったかって勢い込んで聞いていたわ。駐在さんがそんな話は聞いてないというと、ほっとした顔をしてまた自転車に乗って行っちゃったわ。 暫くして、繁子ちゃんから陽向君がもう何日も学校に来ていないって聞いたの。結局、そのまま陽向君は居なくなっちゃったのよね?」 頷くと千香子はほうっと溜息をついた。 「本当のところは何もわからないけれど・・・ずっと私の心のどこかに引っ掛かっていて、何かのはずみでよく二人の事は思い出したわ。征治さんにお聞かせしてよかったのかわからないけれど、私は今日お話しできて少し心が軽くなったわ」 「いや、聞けてよかったよ。千香子ちゃんはずっと二人のことを気に病んでくれていたんだね。話してくれてありがとう」 本心だった。そろそろ娘を迎えに行くという千香子と別れた後も、とっくに雨は上がっていたがしばらくそこから動くことができなかった。

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