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第46話

小太郎を殺したのは陽向ではなく勝だったのか? だが、確かに勝は陽向が殺したと言った。 違うなら陽向はなぜ反論しなかった?俺が詰め寄った時、違うと一言いえばよかったじゃないか。 だが、征治は自分の心のどこかに「ああ、やっぱり」という気持ちがあることも否めなかった。 いつも、辛くて哀しくて目を背けていた、大切なものが壊れてしまったあの日の事。 でも今日は、注意深くあの日の記憶を手繰り寄せる。 ーーーーー 真ん中には白いシャツを真っ赤に染めた陽向が立っていて、その足元には口から血を流して倒れている小太郎の姿。すぐ横に血が付いた陽向の金属バット。 その周りを取り囲むように、勝と使用人たちが、少し離れたところに従妹の里香が呆然として立っていた。 「何があったんだ!」 征治は叫んだ。皆が息を飲んで固まっている。やがて、勝が掠れた声で言った。 「陽向が、小太郎を殴り殺した」 征治は全身の毛がぶわあっと逆立ち、体温が一気に上昇するような感覚に襲われた。縁側から飛び降り、陽向の肩を力任せに掴む。 「陽向!なんでこんなことしたんだ!こんな酷いことを!」 そこではっと我に返り、小太郎に駆け寄った。小太郎、小太郎と名前を呼びながら、心臓のあたりを確認するが拍動は感じられない。 「誰か、獣医さんに連絡して!」 そう叫んで小太郎の口元に手をやってみるが、やはり息をしていない。男衆の一人が近づいてきて、小太郎の瞼をめくり、首の動脈を確認して「坊ちゃん、これはもう駄目です」と苦しそうに呟いた。 まだこんなに体も温かいのに、小太郎は本当に死んでしまったのか? 明らかに寝ているときとは違う口のあき方とだらりと垂れ下がった舌。口の周りと白い毛にこびりついている真っ赤な血。何も映していない半開きの両目。 「生き物」が魂の抜けた、ただの「モノ」になってしまった・・・。 「小太郎?」 呼びかけても、もう応えないのだ。征治の目から涙が溢れ出た。 その時ひゅーひゅーという変な音がしたかと思うと、誰かが「陽向!」と叫んだ。 振り返った征治の目に倒れていく陽向の姿が見えた。使用人たちが駆け寄る。 「意識がない」「車で内藤先生のところに連れて行こう」男衆の一人が陽向を抱きかかえて門に向かった。征治は何も考えられずにその光景を呆然と見ていた。 やがて、また庭が静かになり、小太郎に意識が引き戻される。 その時、従妹の里香が声を上げた。 「ねえ、警察には連絡しないの?あの子が犬を殺したんでしょ?」 皆がぎょっとした顔をした。 「人間じゃなくたって、殺したら犯罪でしょ?警察に逮捕してもらった方がいいんじゃないの?」 征治は激しく揺れ動いている感情とは別に、頭の中でピコピコとパソコンが動き出すような感覚を覚える。 この家の中の采配をふるっていた母は今、動けない。祖父ももう居ない。 俺がこの家を守らなければ。 皆に背を向けたまま、涙を拭う。

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