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第48話

その後、征治は頭と体をフル稼働させて事後処理にあたった。 どうしても小太郎の亡骸をゴミのように処理するのは耐えがたく、遺骨を返してくれる民間業者を探し出し、男衆に運転を頼んで隣の市まで小太郎を火葬してもらいに行った。 翌日受け取った小太郎の骨と首輪、おもちゃにしていたテニスボールを裏庭の小太郎がお気に入りだった場所に埋めて、墓を作った。 役所に出す死亡届を用意し、保健所に鑑札や狂犬病予防の注射票の返却の準備し、委任状とあわせてお手伝いさんに託す。 日曜の夕方、ようやく身を起こすことが出来た母に、陽向がはずみで小太郎を死なせてしまったこと、事後処理は済んでいることを報告した。 併せて、陽向が倒れた時にでもけがをしたらしく、検査や治療のため1日だけ入院したこと、夕方に男衆が車で迎えに行く段取りになっていることも伝える。 そして、父には小太郎は事故に会って死んだことにしてほしいと頼んだ。万が一にも、陽向がこの家から追い出されるうようなことになってはいけないからだ。 もっとも、父は普段から小太郎にはなんの関心も示していなかったから、特に追及はしないだろう。 使用人たちにも、父には事故死であると口裏を合わせてくれるように言い含め、寮の門限に間に合うように電車に飛び乗った。 そうして、役目は果たした、と思った瞬間、どっと感情の波が押し寄せてきた。 いったいどうして、こんなことになってしまったのか。 陽向とちゃんと話し合わなければと思って反対方向の電車に乗っていたのは、ほんの昨日のことなのに。 もう手遅れだったのだろうか。 陽向、お前はそんなに俺と散歩に行くのが嫌だったのか?小太郎を殺さなければならない程に? お前の気持ちが分からないよ。そんなに俺といるのが苦痛になったのなら、そう言えばよかったじゃないか。小太郎を殺すことなんてなかったんだ・・・。 小太郎のむくむくとした子犬の頃の様子や、白い尾を振ってはしゃいでいる姿、もっとボールを投げてくれと口にくわえてこちらに向かって走ってくる姿を思い出した。 それから、口から血を流して倒れている姿も。 征治は電車の中で、泣かないように必死で歯を食いしばり、眉間にしわが寄るのを窓の外を見ているふりをしてごまかし続けた。

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