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第49話
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征治は長い回想から意識を戻した。目の前にはカップに三分の一ほど残ったコーヒーが冷たくなっている。
もし、千香子の言うように小太郎を殺したのが勝だったのだとしたら・・・
自分の今までとってきた行動や判断が間違ったデータを基にしていたのだったら・・・
また、先程のシーンが浮かぶ。縁側から飛び降りた俺が、陽向をなじり、陽向が固まっていて・・・
その時突然、いつもフィルターが掛かっていた陽向の顔がはっきり見えた。
大きく目を見開き驚愕していて・・・そしてその目は「征治さんは僕を信じてくれないの」と悲しみをいっぱいに湛えている。
そしてつうーっと涙が伝った後、その目はただの黒い穴のように何も映さなくなった。
なぜ、俺は陽向を信じてやらなかったのだろう。
俺の放った言葉が、陽向を壊してしまったのかもしれない。
胸がキリキリと締め付けられた。もし千香子の言う通り、勝が小太郎を殴っているのを必死で止めたのに、小太郎が死んでしまったのだとしたら。
それだけでも小太郎を可愛がっていた陽向には大変なショックだったはずだ。その上、勝には皆に自分が殴り殺したのだと言われ、自分を信じてくれると思っていた俺に詰られ・・・
本当はあの時、陽向は俺に助けを求めていたのではないのか?俺が陽向を護ってやらなければならなったのではないのか?
ああ、陽向!
征治は頭を抱えて呻いた。
しかし疑問も湧いてくる。
千香子は勝が陽向の事を大切だったのではと言った。もしそうなら、なぜ勝は自分の罪を陽向に被せたのだ?
そして、俺が秦野青嵐として再会する前に最後に見た陽向の姿。
あの日、征治は翌日の法事のため、実家に戻っていた。
父から、ちゃんときちんとした格好で法事に出席するよう勝に念を押しておけと再三言われ、勝の姿を探していた。しかし、どこにも見当たらず、小屋まで足を延ばしたのだ。
小屋の窓から中の様子を窺った征治が目にしたのは、上半身をはだけ、その白い首筋を大きな男に吸い付かれていた陽向の姿。
あの大きな男は・・・勝だ。
そして、陽向は俺と目が合って・・・俺は2度目の裏切りだと感じてすぐにその場を離れたが・・・陽向の顔がくしゃりと潰れ、涙が溢れ出したのを・・・確かに見たことを思い出した。
弟に・・・勝に会わなければならない。
混乱する頭で、それだけははっきりと分かった。
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