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第51話

硬い表情でホテルの部屋にやってきた8年ぶりに会う勝は、日に焼け痩せており、征治を睨みつけるようなその目付きだけが昔を彷彿とさせた。 「久し振りだな、勝。元気だったか」 「陽向は?兄貴は陽向に会ったのか!?」 会うなり、勝は勢い込んで聞く。 「おい、挨拶もできないのか。言っただろう、お前が俺の質問に答えなければ教えない」 とにかく座れと促す。 「今更、俺に何を聞きたいんだ」 憮然とする勝に征治は言った。 「お前には聞きたいことが山ほどある。だが、まず聞きたいのは小太郎の事だ。お前は陽向が小太郎を殺したと言った。それは本当だったのか?」 目を見開く勝に征治は続ける。 「実は最近、内藤医院の千香子に会った。千香子はあの日、偶然うちの近くを歩いていて、陽向がお前に縋りついて小太郎が死んでしまうからやめてくれと叫んでいるのを見たと言った。 俺は今更、お前が小太郎を殺した犯人だろうと糾弾したい訳じゃない。ただ、あの事件がきっかけで陽向が声を失ったのだとしたら・・・そしてその責任が俺にもあるのだとしたら、陽向に詫びなければいけないと思っている」 「詫びる?・・・じゃあ、陽向は・・・生きているんだな?・・・よかった・・・よかった」 勝は声を震わせ、俯いて目のあたりを左手の手のひらで覆った。 「元気に・・・しているのか?声は、やっぱり出ないのか?」 「・・・声は相変わらず出ない。なあ、勝、お前と陽向に何があったんだ。ちゃんと説明してくれ。さっきからのお前の様子を見ていると、本当に陽向の事を心配していたように見える。お前は陽向が大切だったんじゃないのか? なら、どうして陽向の可愛がっていた小太郎を殺して陽向に罪をかぶせたんだ?陽向は早くに両親を亡くして苦労ばかりしてきたじゃないか」 征治は落ち着いた声で諭した。 「話したって兄貴にはきっとわからないよ。兄貴は頭はいいのか知らんが、バカ殿よろしく何にもわかっていない」 「ああ、きっとそうなんだろう。俺も最近それに気が付いてこうしてお前を探し出して過去から改めようとしてるんだ。頼む、話してくれないか」 勝はしばらく俯いて考えていたが、そのうち腹を決めたようだった。 「俺は・・・子供の頃からずっと陽向の事が好きだったんだ。親父や周りの大人は、みんな兄貴と俺を比べて、出来が悪いと馬鹿にした。陽向だけは俺は俺でいいと言ってくれたんだ。俺は陽向だけがいればよかった。 なのに・・・陽向は兄貴のことが好きで・・・ 兄貴は勉強も運動も出来て、大人たちの受けもよくて・・・顔だってお袋譲りの美形なのに俺は親父に似てこんなだ。なんでも持っているのに陽向まで俺から取り上げるのかと、憎くて仕方がなかった」 征治は言葉を失った。 勝が自分に対してコンプレックスを抱いているのではないかとは思っていたが、あんなに自分に突っかかってきた理由が、陽向に対する恋心と自分への嫉妬心からだったとは。全く気付いていなかった。

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