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第52話
「兄貴が寮に入って、俺は一安心した。俺と陽向は住んでる家も同じなら、登下校も中学もずっと一緒だ。これで陽向の中の比率は俺の方がずっとでかくなるはずだって期待した。
陽向が俺の道着姿がサマになってて強くてかっこいいと言ってくれたから、柔道だけは真面目にやった。
なのに陽向は、兄貴が返ってくる日を指折り数えて・・・俺の方がずっと陽向の事を必要としているのに。我慢ならなかった。
小太郎の散歩はずっと俺と行けばいい、兄貴とは行くなって言ったのに陽向はなかなかうんと言ってくれなくて・・・いうことを聞いてほしくて、陽向を脅したりもした。
あの日・・・学校から帰ったら、庭で陽向が小太郎に話しかけてたんだ。『もうすぐ征治さんが、帰って来るねー。楽しみだね、さっきちょっと見たらまた凄くかっこよくなってたんだよ?小太郎も征治さん大好きだよね?僕もだーい好きなんだぁ』って。
俺はかっと頭に血が上って・・・小太郎の腹を蹴った。陽向はびっくりして俺を止めようとしたから突飛ばしたら、小太郎が俺に向かって唸り声を上げて・・・
小太郎を最初にいたずらしていたやつらから助けたのは俺だ。なのに兄貴はうまく親父に言って小太郎を自分の犬にして美味しいところを持って行った。
それに、休みの日に二人でいそいそと散歩に出かけていくのがたまらなく嫌だった。
小太郎なんて拾わなければよかったんだ、飼わなければよかったんだって一気に頭に血が上って・・・、気が付いたら傍にあった金属バットを握りしめてた。
そうしたら陽向が悲鳴を上げて・・・『征治さん、助けて!』って叫びやがった。その瞬間目の前がぐわっと真っ赤になって・・・その後のことはよく覚えてない。
意識がはっきりしたときには小太郎が口から血を流して倒れてて、その首に陽向が縋りついて泣いてた。陽向が泣きながらなんでこんなこと、コタは何にも悪くないじゃないって言うから・・・
俺がこんなに必要としているのに振り向いてくれないで、兄貴ばっかり追いかけるからって思って・・・
『お前が悪いんだ!お前のせいだ!』って叫んでいるところに使用人たちが集まってきて、血だらけの陽向と俺の台詞から勘違いしたんだ。
そこへ兄貴が帰ってきて・・・
俺は陽向が小太郎を殺したと言った。どうせすぐに陽向が否定するだろうが、一瞬でも兄貴の苦悩する顔を見てやりたかったんだ。
兄貴は俺の言葉を真に受けて陽向に詰め寄った。
陽向は・・・一言も否定しなかった。首を横に振ることもしなかった。
・・・俺は、陽向が俺の共犯者になってくれたような気がして・・・歓喜したんだ」
あまりの事にすぐには言葉が出なかった。
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