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第55話

そうしたら、陽向がカバンに荷物を詰めてて・・・この家を出ていくつもりなんだってわかった。 俺は陽向の気持ちも当然だと思ったけど、止めようと必死だった。陽向がどこかに行ってしまうなんて耐えられない。もういっそ俺のものにしてしまえって・・・そうしたら優しい陽向は情が沸いて俺の前から消えないでくれるかもしれないと、一縷の望みにすがる思いだったんだ。 最初は激しく抵抗されたけど陽向は急に大人しくなって、俺は受け入れられたと思って舞い上がった。 でも途中で陽向が泣き出した。目から次々涙が溢れて・・・それ以上は出来なかった。俺は陽向に謝って、陽向が怖がるといけないから・・・その、トイレを借りて処理をして・・・部屋に戻ったら陽向は居なかった。 さっき詰めかけていた荷物もカバンもそのままだから、顔でも洗っているのかと水場とかを探してみたけどいなかった。 そのうち窓ガラスに何か貼ってあるのに気が付いた。ちいさくやぶった紙に「お世話になりました」と殴り書きがされていて、テープで貼り付けられていた。慌てて駐輪場を見に行ったら、陽向の自転車が無かったんだ。 俺も自転車に乗って陽向を探しに出た。思いつくところは全部行った。近所は勿論、小学校も中学校も高校も陽向の両親の墓も。陽向の親父さんが死んだ山にも行ったし、お袋さんが死んだ海岸にも行ってみた。兄貴の学校にすら行ってみた。でもどこにもあいつは居なかった。本当に消えてしまったんだ。もしかしたら何もかも嫌になって死んでしまったんじゃないかと思うと怖かった。俺は途方に暮れて3日目にとぼとぼ家に帰った。 親父が法事をすっぽかしたことで怒って俺を殴った。『陽向はどうした。一緒にどこかへ行ってたんじゃないのか』っていうから、書き置きを投げつけてやった。そしたらあの野郎・・・『こんな紙切れ一つで、今まで育ててやったのに恩知らずめ』って言いやがった! 俺はその言葉にブチ切れた。その時、俺が陽向に代わって親父に復讐してやるって決めたんだ。 俺は高校を卒業するとすぐに仙台に行って、復讐の方法を考えた。 色々考えるうちに、邪魔になった陽向の両親を殺して会社を大きくしてきた親父の金で暮らしている自分も嫌になった。病気の母さんには少し悪いとは思ったけど、うちの家族はみな同罪だと、全部壊してしまえと思った。 だから、俺は新聞社と週刊誌のいくつかに親父の会社とヤクザの繋がりや粉飾決算の事をリークしてやったんだ」

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