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第57話

「・・・俺も本当は兄貴が憎いと思うのはただの八つ当たりだってわかってたんだ。陽向が兄貴のことを好きになってしまったのだって、本当は仕方がないことで・・・好きな相手に振り向いてもらえない奴なんてそこら中に溢れてるはずなのに。 でもどうしても俺は陽向の事を諦められなかったんだ。俺もわざと兄貴が陽向に詰め寄るような嘘をついて・・・そのせいで陽向の声が・・・同罪だ」 勝がしんみりとした声で言った。 「兄貴にもきっと苦労を掛けたよな。・・・兄貴は・・・ちゃんと大学を卒業できたのか?」 「じいちゃんが死んだときに、俺たち兄弟と陽向に信託財産を遺してくれていたんだ。二十歳になったら受け取ることが出来ることになっていたから、奨学金とその金のおかげで辞めずにすんだ」 勝はほっとした様子で「そうか」と呟いた。 「陽向も、あんなに小さな体でおまけに口もきけなくて・・・どんなに苦労しただろう。自殺の心配もしたけど、ヤクザが家に恐喝に来た日に失踪したから、奴らが陽向に話を聞かれたと知って陽向に手を下したらどうしようって怖くて怖くて仕方がなかった。生きていてくれて・・・本当によかった」 「勝、俺たちは陽向に謝らなけらばいけない。勿論、親父もだ。しかし、裁判では陽向の両親の死の事は出なかったのはなぜだろう。報道でも見た覚えがない。そのことはリークしなかったのか?」 「言わなかった。もし個人名が出て、陽向が追いかけ回されることになったらかわいそうだと思ったんだ。口のきけないあいつはマスコミの格好のネタにされそうだし。もし、警察の捜査が入って出てきてしまったら、それは仕方がないと思ったんだ」 「そうか。親父とこのことで話をしたことがあるか?」 「ない。高校卒業以降、会ったことも話したこともない」 勝は吐き捨てるように言った。その様子から勝が父親の事を全く許していないことが伺えた。 だが、征治は思う。親父とも会って話さなければ、本当の事は分からない。自分の目で見て耳で聞いて真実を確かめなければ。 それから、征治は陽向と再会した時の状況やその後の様子、吉沢から聞いた話を勝に話して聞かせた。 そして、自分が陽向だと気づかなかったことも。 勝は信じられないと非難の目で見た。征治も、さらに陽向を傷つけたのではないかとわかっている。 「確かに俺は最低だ。でもな、昔と随分変わっていたんだ。陽向はいつも短く髪を刈っていただろう?それがウェーブの掛かった長髪なんだ。それに、一番の違いは背の高さが俺と変わらない位だったんだ」 「あれから20㎝以上伸びたってことか?高校卒業してから?」 それには勝も驚いたようだった。

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