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第62話

夏休みに征治さんと初めて神社の方へ散歩に行ったとき。僕が会えない間は寂しいって甘えたら、征治さんがキスをしてくれた。 僕の唇が征治さんのあったかい唇で包まれて・・・二回目はもうちょっと強く吸われて、頭がぼうっとなった。その後も顔中にチュッチュッて優しくキスの雨を降らせてくれて・・・征治さんは僕を抱きしめながら我慢できなくてごめんって謝ってたけど、僕はすごく嬉しかった。 翌日もずっとふわふわと雲の上にいるような気持ちだった。勝君と小太郎の散歩にまた神社へ行った時も、昨日の事を思い出してにやけちゃってたんだ。そうしたら、勝君が言ったんだ。 「ちびすけ、今日はなんかご機嫌だな」 って。僕は深く考えずに 「昨日、征治さんにこの場所教えてあげたんだよ」 って話した。 途端に勝君の顔が真っ赤になって鬼の形相になった。そして、僕を思いっきり突き飛ばした。 吹っ飛んだ僕は訳が分からなかった。勝君は確かに乱暴者で色んな物を壊したり、喧嘩して人を殴ったりするけど、僕に乱暴したことは一度もなかったから。それに最初はなんで怒っているのかも分からなかった。 びっくりして勝君を見上げると、勝君は拳をぶるぶる震わせていて、 「お前が悪いんだ。勝手に・・・教えるから」 そう言うと、階段を下りて行ってしまった。 僕はコタととぼとぼ帰りながら、なんで勝君が怒ったのか考えた。 勝君は中学受験の前あたりから急に乱暴になってまわりに当たり散らすようになった。 出来の良すぎるお兄さんがいるからいつも周りの人に比べられて、僕から見ても大変そうに見えた。 なのに旦那様はすぐに征治さんを引き合いに出して、勝君のイライラを酷くさせた。だからこそ、勝君はあんなに征治さんにも当たるのだ。 僕の事は家来のように思っているのかなと感じていた。自分の家来だから殴ったりはしない。でも、何かと命令して振り回す。 学校の友達なんかは僕の代わりに怒ってくれたりしたけど、僕はちょっと違う解釈をしていた。 いつも、勉強の事でお父さんに怒られて、家の品格を落とすような行為をするなとお爺さんに叱られ荒れ狂う勝君は、学校でも先生からは目をつけられ、友達からは怖がられ、とても息苦しそうだった。 慶田盛の家に引き取られた幼馴染の僕だけが、勝君にとって言いなりにできて息をつける相手なんじゃないかって。 よく考えれば、最初に神社に行こうと言ったのは勝君だった。もしかしたら、子供が自分達の秘密基地を仲間以外に知られないようにする、ああいうのだろか?勝君の秘密基地を家来の僕が勝手に征治さんに教えたから怒ったのかもしれない。 その時の僕はそう考えた。

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