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第63話

その日から勝君の束縛がきつくなった。学校でも家でも大した用事も無いのに何かと僕を呼びつける。まるで、僕が自分の家来だと周りに見せつけているように思えた。 そんなことが続くうち、僕はあることに気が付いた。 僕が週末に征治さんと散歩に行く前後に勝君の機嫌がものすごく悪くなるのだ。ただでさえコンプレックスがある征治さんが自分の家来を連れ歩くのが面白くないのかもしれない。 その傾向はどんどん強くなって、とうとう勝君は「兄貴と散歩にいくな」と言葉にした。 「嫌だよ」と言ったら、突然勝君が暴れだした。すぐそばにあった梅の木の枝をボキボキ折り始めたのだ。 「やめて!重さんが一生懸命世話してるんだよ!取り返しがつかないよ!」 必死で止めたら「お前が悪いんだ」と言ってどこかへ行ってしまった。 次の週は「兄貴と散歩に行ったら許さねえ」っていうから、「行く」と言ったら、征治さんのクロスバイクをボコボコに壊した。 「なんでこんな事するの!?」 「お前が俺のいう事きかないからだろ。お前は俺のいうとおりにすればいいんだ。お前がまたいう事きかなかったら、また兄貴の大事なもん壊す」 そう言い放って最後にもう一度クロスバイクを蹴っ飛ばしていった。 訳が分からなかった。こんなの無茶苦茶だ。 僕が勝君のいう事を聞いてきたのは、勝君がとても息苦しそうだったから。そして幼い頃から知っている僕は、勝君は本当は悪い奴じゃないって思っていたからだ。 もう勝君は本当に昔と変わってしまったんだろうか。 僕はどうしたらいいんだろう? もし、征治さんにこの状況を説明したらどうなる? 征治さんは勝君の横暴をきっと正論で説いて、やめさせようとするんじゃないだろうか。でも、それで勝君が「分かった」というわけがない。実際、征治さんに当たるのを誰も止められなくて征治さんは寮に入ることになってしまったんだから。 それに僕たちは秘密の、男同士の恋人だ。それを大っぴらにして「邪魔するな」なんてことは言えっこない。 征治さんのクロスバイクは男衆に相談して修理屋さんで直して貰った。少し傷は残ったけど直ってほっとした。 なのに、今度は征治さんが帰ってくる前日に、わざわざ二階の征治さんの部屋の窓から庭にいる僕を呼びつけ、「わかっているよな?」と征治さんが大事にしているBOSEのスピーカーを窓から投げ捨てるふりをしてみせた。 勝君の事だけで手一杯だったのに、中学の女友達に征治さんを見つかったのも僕を困らせた。河原で3人に会った翌週には、「慶田盛君のお兄さんがすごいイケメン」という噂が学校に広がっていた。 文化祭で僕の入っている文芸部と演劇部はコラボすることになっていて、僕も脚本の一部を書くことになっていた。そんな打ち合わせは学校でできるのに、征治さんを見るためにわざわざ土曜日に慶田盛家へやって来る。 勝君には怖くて頼めないから、僕のところに征治さんを紹介してと言ってくる女の子もいて、僕は征治さんを取られてしまうんじゃないかって気が気じゃなかった。

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