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第69話

その年の秋、嵐の夜に重さんが亡くなった。 僕はすぐに重さんの異常に気が付いたのに、声が出ないせいで助けてあげることができなかった。声が出なくなってから初めて、話せないことを本気で辛いと思った。 その頃の僕の生活の中では重さんは大きな割合を占めていたので、小屋で一人で寝起きするようになって寂しさが身に染みた。 その年の末のことだった。樹木の手入れをしていると、征治さんがこちらに向かって歩いてくるのが見えて驚いた。そして、さらにその後ろから強張った表情をした勝君が足早に追って来る。 どうしたんだろう?いったい何が起きてる? 征治さんが僕から3メートルと迫ったところで、勝君が征治さんを追い越し、「陽向、ちょっと来い」と僕の肩をぐいと掴んだ。 勝君は最近はだいぶ落ち着いて暴れたりはしなくなっていた。でも、学校でも家でも僕の事を振り回すのは変わっていなかった。今度は何だろう。 征治さんは何か話すタイミングを失ったようにじっとこっちを見ているが、こんな至近距離に立つのは久し振りで僕はどこを見ていいのか分からず俯いた。 勝君が「早く来い」と僕の腕を掴んで歩き始めたとき、征治さんがぼそっと呟いた。 「お前の周りでは色んなものがよく死ぬな」 目の前が真っ暗になった。 隣で勝君がしきりに何か言っているけど全く耳に入ってこなかった。 いつかまた声を掛けてもらえる日がくるかもしれないなんて、僕はなんておめでたい奴だったんだろう。僕はずっと憎まれ続けているじゃないか・・・。 そんな痛い目に会ったのに、まだ僕は征治さんの部屋の窓を見上げるのをやめることが出来なかった。そして、やっぱり征治さんも窓からじっとこちらを見下ろしているのだ。その表情からは僕は何も汲み取れない。 でも、もう夢を見るのはやめよう。もう僕の事を前みたいに優しく「陽向」と呼んでくれることはきっとない。 もうあの幸せだった日々は戻ってはこないのだ。

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