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第79話

4週目の今日は、6月上旬といっても夏のような日差しで、気温も高い。あの人は今日もあそこでずっと僕を待つのだろうか。 熱中症にならなければいいけど。 『陽向、昼間作業するときは熱中症に気をつけなよ?ちゃんと帽子も被って、水分も取りながらやるんだよ』 急に、昔あの人が僕を気遣って言った言葉が蘇る。傍らには僕が育てた色とりどりの朝顔が咲いていて、あの人が朝日の中で微笑んでいて・・・ だめだめ。色々思い出すと、また心が波打ってしまうじゃないか。 やっぱり、このままではいけない。こうして逃げ続けていたって、ずっと僕の心は乱され続けているじゃないか。 会って、どんなにつらい気持ちになったとしても、それっきりで終わりにしてしまえば、いつかまた少しずつ忘れて平穏な日常が帰って来るかも知れない。 いや、取り戻さなきゃいけないんだ。このまま引き籠っているわけにいかないことは自分でもよく分かっている。 来週。来週こそは会いに行こう。そして、ちゃんと終わりにするんだ。 僕はようやく、そう決意した。 翌週の日曜日は2日前の梅雨入り宣言通り、朝からしとしとと雨が降り続けていた。 僕は朝から変な興奮状態で、昼食もろくに喉を通らなかった。 2時になり、本棚の中の小さな写真に語り掛ける。 「コタ、今からあの人に会ってくるよ」 色褪せた写真の中のコタは笑っているように見え、頑張れと背中を押してもらったと勝手に解釈する。 このまえ、東屋を見に行った外周道ではなく、公園の中から池の方へ向かう。いつもあの人は2時より少し早く来ているから、きっともう着いているだろう。 傘を叩く雨の音を聞きながら、ほぼ無人の公園を東屋へ近づいていく。緊張して心臓が口から出てきそうって、きっとこういう感じなんだと思いながら、一歩一歩近づくと案の定、東屋の中にあの人が座っているのが見えた。

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