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第95話
月野珈琲店での勝君との再会は自分でも驚くほど冷静でいられた。やはり、そばに征治さんが居てくれたのも大きい。
勝君は相変わらず背が高かったけれど真っ黒に日焼けして痩せていて、だいぶ感じが変わっていた。そして、何より昔のような危うさがなくなっていた。
勝君が誠心誠意詫びているのが伝わってきて、僕も今更怒りや憤りが湧いてくることもなかった。それも、ここまでの征治さんとのやり取りで自分の気持ちがだいぶ整理できていたおかげだと思う。
勝君と会う前に、征治さんは僕に言った。
「陽向が思っていることを全部勝にぶつけていいんだ。あいつにされて嫌だったこと、辛かったこと、全部言っていいんだよ。陽向のここに溜まっていたものを吐き出してしまうんだ」
征治さんは自分の胸を手で押さえる。
「それに、その方がきっと勝も救われる」
その言葉の意味は分かる気がした。
僕は見たことがあるのだ。コタの墓の前で一人佇んで、「小太郎、ごめんな」と呟いていた勝君の姿を。勝君は自分のしでかしたことを悔いている。だからこそ、僕も勝君を憎んだりできなかったんだ。
一通り話が終わったところで、征治さんがちらっとスマホを見やり、
「ごめん、少し仕事の連絡をしてくるから」
と言って席を外した。でもきっと、勝君と僕の様子を見て大丈夫だと思って、気を利かせたのだと思う。
勝君もそれはわかったようで、苦笑しながら頭を掻いている。
「なあ・・・陽向。お前、まだ結婚とかしてないんだよな?これからする予定とか、その・・・付き合ってるやつとかいるのか?」
付き合っているというのは違う気がして、首を横に振る。
「じゃあ、俺と一緒に暮らさないか?俺は一生かけてお前に償いたい。お前のためなら何でもする。お前の嫌がることは絶対にしない。だから・・・駄目か?」
僕は驚いて目を瞠った。でも勝君の目は真剣だ。勝君は不器用だけれど、どこまでも一途だった。
でも、やっぱり勝君とこれから二人で歩んでいく未来は想像できない。
『ありがとう。でも、ごめんなさい。一緒に生きていこうかと思っている人がいるんだ』
「それって・・・兄貴か?」
僕はびっくりしてかぶりを振る。
『違うよ。僕が苦しいとき支えてくれた恩人なんだ』
勝君は「・・・そうか」と呟いた。
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