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第100話

菱川の存在に気が付いた風見君は、過去のことまで調べ始め帳簿の使途不明金から奴らに渡った金の存在を知り、私に今すぐ関係を断ち切れと迫った。菱川やその上の組織についても調べ、暴力団に強い弁護士を探して対応策も練りはじめた。 菱川の連中も風見君の動きに気が付いて、私に大人しくさせるよう言ってきた。しかし風見君は頑として聞き入れない。これは、社長や会社だけの問題で済まないと言った。 私はそれを聞いて思ったのだ。彼が忠誠を誓っているのはやはり松平の爺さんなのだ、彼は松平の名を汚すことを恐れているのだと。 再度、風見君をなんとかしろと言ってきた菱川に、『風見は私のいう事は聞かない。彼は自分の意志で動いているから厄介だ。だからほとぼりが冷めるまで、そっちも大人しくしていてくれ』と言った。 それから数日後に風見君は死んだ。そして、すぐに奴らが連絡を寄こした。『先生のご要望どおり、邪魔者を排除しておきましたよ』と。そして『風見は私のいう事は聞かない。彼は自分の意志で動いているから厄介だ』という私の声の録音を聞かせた。そして今度は私を強請り始めた。 私は奴らがそこまでするとは思っていなかったんだ。昔のよしみという甘さがあって、ヤクザの本当の怖さが分かっていなかった。 だがその後も、『先生、これからも仲良くやりましょう』という奴らの甘言に乗ってしまった。報復を恐れるのが半分、それからまだ自分は力を手に入れる途中の段階でここで止まるわけにいかないというのが半分で、風見君の死について口を噤んだ。 その結果、風見君の奥さんまで死なせてしまい、陽向をみなしごにしてしまった」 僕はまるで何か映画か小説のあらすじを聞いているようで、自分の父と母に起こったこととは思えず、黙って聞いていた。 「何も知らないはずの征治と勝が、陽向を慶田盛家に引き取ってほしいと爺さんと嫁に頼んだと聞いた時は愕然としたと同時に、これが私に科せられた償いなのだとも思った」 え?僕を引き取ることを提案したのはおじいさんじゃなかったの? 僕はびっくりして征治さんの方を見たけど、征治さんは表情を変えず僕の方を落ち着いたまなざしで見ている。むしろ、僕が慶田盛さんの話を聞いてショックを受けていないか気遣っているようだ。 じゃあ、本当なんだ。征治さんが僕を引き取ってほしいと言ったのは。あの当時の勝君は征治さんについてまわっている大人しい弟だったから、きっと征治さんが言い出したことに違いなかった。 僕はちっとも知らなかった。一度だってそんなこと征治さんも勝君も言わなかったから。

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